リスキリングを迫る社会は過酷か希望か?DXにも必要な“ソフトスキル”とは
文:D-JEDI理事 滝川麻衣子
「流行語大賞に『リスキリング』がノミネートされています!」
年の瀬がそろそろ近づく頃、そんな投稿が職場のSlackで飛び交っているのを見て、思ったより早くそんな時代が来たんだな、とふと実感しました。
私の現在の勤務先は社会人の学びのサブスクリプションを手がけるSchooという会社で、この手の話に社内の興味関心が高いのはまちがいありません。それをさっ引いても2022年は「リスキリング」が一気に知名度を得た感があります。
2022年10月初旬、岸田文雄首相が所信表明演説で「個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じる」と表明したのも記憶に新しいですよね。
そしてこのリスキリング話は思った以上に「個人がこれからどう生きるか」に直結する話でもあるのです。
2022年、国を上げてのリスキリングが来た理由
リスキリング自体は、もともと欧米からやってきた言葉で「デジタルスキルの再習得」といった意味合いで使われています。
その大きな目的は、言ってしまえばデジタル産業への社会的な「労働移動」です。18世紀に農業から工業への産業革命が起きたように、21世紀には工業からデジタルへと産業構造の大きな転換が起きています。新しい産業に従事する人を増やすために、デジタルを学ぶ流れが必然的に生まれているのです。
追い風になったのはコロナです。オンラインの利便性がフォーカスされ、AIやビッグデータの存在が膨らみ続ける一方で、それを使いこなす人材が足りないことがグローバル規模で実感されました。とりわけ、低成長時代にICT投資がなされなかった日本においては深刻で、国を上げてのリスキリングの波がやってきたわけです。
転職は「前職の貯金」だけではまかなえない
国の政策というと遠く感じるのですが、こうした波は必ず個人の人生にも及ぶということを私自身、肌身で実感してきました。
私は2000年代初頭に新聞社に入社。当時から新聞社は斜陽産業といわれていましたが、今思えばまだ目の前の取材に没頭できる時代でした。本格的にこのままだとまずいな、と感じたのは、電車で新聞を読む人が急激に減り出したこと。2010年代になり、スマートフォンが本格的に普及した頃でした。
その後、デジタルメディア、動画コンテンツのスタートアップと転職しながらキャリアを変遷してきました。毎回もちろん、前職の知識や経験が活きるところを選ぶわけですが、ただし前職の「貯金」だけでやって行けるわけではありません。
新しいことをはじめる度に毎回、アナリティクスやデータ解析、経営学にマーケティングと足りないものを突きつけられ、焦ったり挫折感を味わったりしながら、やっぱり勉強して格闘するしかないのです。
2030年までに身につけるべきスキルとは?
変化のスピードの速い時代に、「生涯を通じて変身を続ける覚悟」の重要性を説いたのは、2016年の世界的なベストセラー『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットン氏です。
変わり続けるために学び続ける時代であることは年々、クリアになる中で、何を学ぶかは迷子になりがちです。今はビッグデータだAIだweb3だと言われていますが、この先も必要なスキルトレンドは変わるでしょう。一体、どんなスキル習得や勉強をなすべきなのかー?
ちなみに、英オックスフォード大学機械学習教授のマイケル・オズボーン氏がラーニングカンパニーPearson社から発表した、2030年に必要なスキル予測(US版)は次の通りです。
https://futureskills.pearson.com/research/assets/pdfs/technical-report.pdf
ここへ、AIやデータ分析、UIUXデザインなどのハードスキルが乗ってくるわけですが、いかに仕事に向き合うかといった、普遍的な能力であるソフトスキルを見通すと…。心理学や人類学、社会洞察力など「人の心理や社会の動きをつかむ力」とりわけ「学ぶ力」が重視されていることが浮かび上がってきますね。
2022年リスキリング入門の決定版
今必要な、リスキリングとは具体的に何なのか。
この辺りを探るヒントとして2022年にお薦めなのが、日本初のリスキリングに特化した団体であるジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表、後藤宗明さんの著書『リスキリング』です(上記のスキル予測についても詳しく解説されています)。
後藤さん自身が、大手銀行員を皮切りに、人事系スタートアップ、ニューヨークでの起業、米国NPO、米国フィンテック日本代表などを経て、日本でジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。現在は自治体への政策提言や企業へのリスキリング導入をを手がけているという、ご自身がリスキリングのカタマリのような人です。
私の前職であるBusiness Insider Japanの立ち上げ編集長で、JEDIを共に設立した浜田敬子さんを通じて知り合ったのですが、変化に富んだ2022年にお会いした方の中でも、もっともインパクトのあるお一人です。後藤さんと話すといつも、その熱量と変化に向き合う柔軟性に、非常に刺激を受けるのです。
政府のリスキリング政策で、さらに引っ張りだこの後藤さんですが、ご自身はGreen Transformation、そして宇宙テックへと、その先に学ぶことへとっくに視点が移っていることにもまた驚かされます。そこには加齢とともに誰しも置きがちな「制限」や「あきらめ」がないからです。
生涯リスキリングを迫る社会は生きづらい?
それにしても、学校を卒業しても生涯学び続け、自分自身を常に変化させる人生は、無限の可能性があるともいえますし、いつまでものんびりできずになんだかハードそうにも思えます。
リスキリング=生涯学び続ける社会の到来と必然性を痛感し、DJEDIを立ち上げたり、社会人の学び直しのサービスの会社へ転職したりした私ですら、「学び直し」や「リスキリング」「アップデート」に迫られ続ける社会は、果たして幸福なのだろうかーなどと思う時はあるのです。
リスキリングがやたら言われる社会に「いつまでも勉強しろと言われるのか…」と、過酷な競争社会を連想する人は決して少なくないと思います。
そんな私が、初めてオフラインでお会いした際に、後藤さんからもらったある言葉があります。
Reskilling is a never-ending journey.
直訳すれば「リスキリングは終わらない旅」なわけですが、共に旅を続けようという、同じ時代を活きる仲間へのエールでもあり、起きている事象は捉え方一つで、過酷な競争にも自由に道を選べる旅にもなるのだという、ポジティブなメッセージにも満ちています。
みなさんは、変化に満ちた現代とその歩き方を、どう捉えますか?
(了)