AIをメディアはどう活用すべきか ChatGPTにできることとその限界
文:津山恵子
連載:アメリカメディア最前線
対話型AIのChat GPTが2022年末に出現したことにより、シリコンバレーから久しぶりに熱気が伝わってきた。アメリカは今、2000年代のフェイスブック(現メタ)などソーシャルメディアの誕生以来の興奮に包まれていると言っていい。
巨人マイクロソフトが本社に記者を集め、検索エンジン「Bing」に生成系AIを組み込んだことを発表したのも驚きだった。グーグルもChatGPTに対抗するべく3月21日(米国時間)、AIを使った対話型検索エンジン「Bard」を一般公開した。筆者はすぐに登録しようとしたが、23日になってもウェイトリストにある。
CahtGPTは画像や文章、音声、プログラミングコードなど様々なコンテンツを制作する生成AIの一種だ。特に文章制作能力が高く評価されており、論文執筆や記事制作に大きな影響を与えると指摘されている。
では具体的にChatGPTなど生成AIは、メディア業界やジャーナリストの仕事にどんな影響を及ぼすのか。
期待はずれだった翻訳AI
AIとメディア業界の関係について、これまで私たちが体験した二つの出来事を挙げたい。
一つは、AIを使った翻訳ソフトについてだ。
外国語、特に英語の情報を瞬時に日本語にしてくれるソフトの出現を、私たち海外に住むジャーナリストや特派員は待望していた。Google Translateは、AIを使った翻訳の先駆けだったが、長い間、100%信頼できる翻訳ツールとは言えなかった。
今日では、AIを使ったより精度の高い翻訳サイトDeepLが登場し、日本人特派員だけでなく、多くの外国人特派員が利用している。それでも、実際に利用してみると、英語、あるいは元の言語を理解していないととんでもない間違いになるケースがまだある。
AxiosはなぜAIにイラスト制作を任せないのか
二つ目が2022年夏に話題になった生成AIによって制作された映像の扱いについてだ。
ニュースサイト「Axios」は、編集局にいる23人のビジュアル・ジャーナリストたちがビジュアルの制作に当たって生成AIを利用するかどうか議論した結果を記事化している。
Axiosは、ニューズレター(日本のメルマガ)に多くのイラストを利用している。例えば、3月23日午後のトップ記事は、TikTokの最高経営責任者(CEO)が下院で証言をしたというもの。中国企業バイトダンスが運営するTikTokが、中国政府に利用者のデータを提供する可能性があるとの懸念から、バイデン政権はTikTokの禁止を検討しており、公聴会が開かれたのだ。記事冒頭に、スマホの画面に議会議長が使う小槌が下されるイラストが表示されている。
生成AIに関する記事によると、Axiosがつけるイラストは編集局で以下の3つの工程を経ているという。
「記事のテーマを特定し、概念化する」→「テーマを暗に示す映像メタファーとテーマをどうつなげるかブレインストームする」→「いくつかのサンプルを作り、その中から一目でテーマが分かるものを選ぶ」
Axiosの編集局は議論の結果、テーマを伝えるために複数のイラストレーターが関わって問題解決をしていくクリエイティブなアプローチが、AIには不可能という結論に至った。さらにAIはテーマによっては、バイアスがかかった映像を作成する可能性が取り除けないことも、不採用の理由となった。
メディア業界はこのように、AI技術とはかなり慎重に距離をとってきた。