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「選挙報道のデジタル発信」最新トレンド② 政治家を深掘りするデータベース

文:D-JEDI理事 熊田安伸

選挙をめぐる報道はそもそも「データの塊」ですよね。「選挙のデータ」をどうしたらもっと有効に、効率的に使えるのか、そして有権者に関心を持ってもらえるのか。新たなデジタル発信の取り組みをまとめています。

第2回は「政治家のデータベース」に焦点を当てました。政治家やその活動を調べるための「オープンデータ講座」的な内容にもなっていますので、どうぞお使いください。

政治家を深く知るためのデータベースは

ボートマッチの基礎にもなり、有権者も知りたがるのは政治家(候補者)についての情報ですよね。ただ、「政治家の情報を集めたデータベース」というものは実はそんなに多くはありません。

前回の記事にも登場した選挙ドットコムには、政治家のデータを調べることができるサービスがあります。

掲載されているのは所属政党や年齢、選挙区や最近の選挙結果といった基本情報ぐらいですが、その政治家が使っているSNSのアカウントへのリンクが張ってあり、名前の検索ですぐに調べられるのがいいところ。ちなみに私のふるさと、岐阜1区選出の野田聖子さんで検索すると、このような画面が出てきます。赤色の矢印は私が付けたもので、そこから政治家の公式SNSに飛ぶことができます。

選挙ドットコムの「政治家検索」より

まだ当選していない「候補者」についても「政治家」だとして含めているケースがあるとのことです。ジャーナリストにとっては公式サイトをパッと調べるためのサイトとして使えるかもしれませんね。


使う人の視点からもっと面白いUIで見せようというのが、若者NPOのMielkaが運営している「議員pedia」です。
こちらは名前というより議員の「属性」からさまざまな調べ方をして視覚的に比較できるようになっています。

例えば、「経歴」では、世襲、地方議員経験、首長経験、官僚経験、議員秘書経験、大臣経験、民間企業出身、弁護士出身、医師出身、MBA取得などからより分けていけるほか、学歴や過去の選挙の当落などからも調べていくことができます。百聞は一見に如かずのユニークなUIなので、ぜひ触ってみてください。

議員pediaより 「世襲議員」を調べると…


政策、議案、活動に焦点を当てたデータベースも

政策にフィーチャーしたものとしては、石田健さんが編集長を務めるニュース解説メディア「The HEADLINE」の政策データベースがあります。
さまざまな政策について、政治家がどのようなスタンスなのか、政策ごと、政治家ごとに、公式サイトでの記述やアンケートへの回答、過去の発言などから調べていくことができます。

例えば「憲法改正」についてどの議員がどういう立場で、過去にどのような発言をしているのか、このような形で表示され、簡単に調べることができます。

政策データベースより 憲法改正に「賛成の議員」の例
政策データベースより 憲法改正に「反対の議員」の例


スマートニュースメディア研究所
は、国会に提出された議案をデータベース化しました。議案ごとの審議状況や、政党別の賛否、そしてどんな議員がどれだけ何の議案を提出したのかも視覚的に分かりやすく表示されます。

基になっているデータは、衆参両院の公式ウェブサイトから抽出しています。

国会議案データベースより 議案提出者の一覧

それだけではなく、すべてのデータとソースコードをGitHubで公開しており、自由に閲覧・ダウンロードが可能です。こういう「公開・共有」の精神が大事ですよね。今の時代らしい取り組みです。
サイトの制作にあたった、凄腕データビジュアリスト、荻原和樹さん(現・Google News Lab ティーチングフェロー)が見方や使い方について、以下の記事で解説しています。


資料性の高さでいえば、政治学者の菅原琢さんが運営している「国会議員白書」というサイトがあります。
2012年からスタートしたもので、<各議員の選挙区と選挙結果、公認政党、本会議での発言、委員会や各種会議への出席と発言、所属会派や公的役職への就任状況、提出した質問主意書の数と、主意書と答弁書の内容について収集したデータを公表>しているとのことです。

UI、UXなどが今風とは言えない純粋なデータベースなので、一般の人が使うには少々ハードルが高いかもしれません。しかしジャーナリストや研究者が使えば宝の山だと思います。
例えば、「岸田文雄」で検索すると、「選挙結果」「活動実績」「発言一覧」などが示され、このうち活動実績では、このように本会議や委員会での発言のデータが表示されます。

国会議員白書より 「岸田文雄衆議院議員 在職中の活動実績」の一部

具体的な発言についても、このように調べることができます。

国会議員白書より 「岸田文雄衆議院議員 委員会発言一覧」の一部


資料といえば、こちらも紹介しておかなければ。公益財団法人「政治資金センター」の政治とカネのサイトです。
総務省と都道府県の選挙管理委員会から、国会議員や知事などの政治資金収支報告書を集めて、pdfで閲覧できるようになっています。正確にはこれはデータベースではなく、資料をそのまま置いている「倉庫」なのではありますが。検索機能も付いていますが、まだ完璧ではありません。


政治家を「評価」してしまう取り組みも

一足飛びに、政治家を評価してしまおうという動きも出ています。田原総一朗さんが会長を務めるNPO法人「万年野党」では、「質問回数」「議員立法提出件数」「質問主意書提出件数」の三つの指標で議員を評価し、「三ツ星議員」としてサイトで公表しています。評価方法については、議論のあるところだとは思いますが……。

さて、ここまで紹介してきましたが、おや、既存メディアの姿が見当たりませんねえ。

ポイント②政治家の資料をオープンデータ化できないのか

メディア各社は、それこそ「政治家(候補者)のデータベース」を既に持っています。例えばNHKでは、政治家に行っているアンケートなどに基づいて作成したデータベースを、局内のイントラネットでのみ、厳重に鍵をかけて運用しています。

これ、本当にもったいないと思うんですよね。それこそオープンデータ化して有権者のために役立てればいいですし、報道各社でデータを共有すればいいのではないでしょうか。公共性が高いメディアが持っている情報はおしなべて「公共財」、読者/視聴者にもっと還元すべきです。

実はNHK在籍時に、「候補者のポスターを全てネットで見られるようなコンテンツを作ってはどうか」と考えました。ある種の候補者データベースにもなり、投票所に行く前にじっくり見られます。「それなら選挙公報を読んだほうがいい」という考え方もありますが、公報は投票所にも置いてあるのにあまり読まれているとは言えません。読むのが面倒な人もポスターなら眺めますし、そもそも「ポスターを全ての掲示版に張れるかどうかは、事務所の陣容次第」という不公平感もなくなります。全国の選挙管理委員会などとの連携が必要で、あまりに手間がかかりそうなので立ち消えになりましたが、メディアが連携すればどうでしょうか。

2019年の統一地方選の際には、史上初となる全ての地方議員へのアンケートを実施しました。それこそかなりの手間と費用がかかったこともあり、私を含めスタッフは「これはより多くの伝送路で伝えたほうが世の中のためになる」と考え、全国の地方新聞社の皆さんに「データを共有するので、コラボしませんか」と呼びかけました。

当時は人脈もなく、呼びかけに応じてくれるところが少なかったことと、やはりデータ集約に時間がかかってしまい、各紙にとってニーズがあるタイミングとずれてしまったケースもあって、コラボは成立しませんでしたが、あの時と違って今はメディア同士のコラボの気運は盛り上がっていると思います。選挙や政治をめぐるデータのオープン化、共有化だけでなく、コラボしたうえでの発信をもっと進められたらいいなあ、と夢想しております。

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今回は「データベース」に焦点を当ててみました。次回は「データを分析した新たな報道」「事前報道はどこまでできるのか」を取り上げます。ぜひご一読を。

10月29日のセミナーにぜひ

さて、10月29日のD-JEDIのセミナーでは、従来の地上波のテレビの「お作法」を超えて、YouTubeで驚くべき「選挙の事前報道」を展開されたテレビ東京の豊島晋作さんに登壇していただきます。なぜ実現できたのか、たっぷりと裏事情を含めてお話しいただきたいと思います。

そして第二部では、この記事で紹介した関係者や、メディアの選挙報道、デジタル発信の担当者にお集りいただき、新たな報道のアイデアやコラボレーションについても議論をしたいと考えております。