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オープンデータ活用術・完全版【第6章】③政治とカネを調査するポイント・収入編

D-JEDI理事:熊田安伸

前回までは政治資金や政治家の取材に使える資料やツールをご紹介しましたが、今回は実際に取材する際のポイントをまとめてみました。プロのジャーナリストでなくてもポイントを押さえれば、問題点を見るけることは可能です。関心のある方はぜひチャレンジしてみてください。

取材ポイント「収入」

ただ漠然と政治資金収支報告書を眺めていて問題に気付けるかというと……気付けるんです。幾つも読み込んでいるうちに、明らかに「違和感」のあるものが浮かび上がってくるんですよね。

とはいえ、効率的に読みたいもの。以下に、過去に問題になったケースを列挙しますので、参考にしていただければと思います。
まずは「入り」のカネを見ていきましょう。

1.赤字企業や公的金融支援を受けている企業による政治献金

3年以上継続して欠損を出している「赤字企業」から献金を受け取ることは、政治資金規正法の22条4項で禁止されています。会社の経営が危機に瀕している中で、政治献金によってさらに圧迫するというトップとしての責任感に欠ける経営者や、こうした企業に献金を求める倫理観に欠ける政治家を牽制するための法律です。ところがこうした企業からの献金が見つかるケースが実際にあるのです。

政党支部には企業からの寄付もあるので、そのような企業がないかチェックしておきましょう。ここでいう「赤字企業」とは、いわゆる貸借対照表の資本の欠損がある場合、つまり利益の積み上げである剰余金がマイナスになっているということであり、単年度の損益の赤字(当期損失)とは異なるので注意が必要です。直近何年かの経営状態が悪くても、老舗企業などの場合、積み上がった剰余金があることも多いので、貸借対照表を確認しましょう。

2003年2月には、経営再建中のゼネコンによる献金は「違法」とし、経営者に賠償させるという判決も出ています。また、企業が赤字で献金ができないときに、役員らが個人で献金をするケースもありますが、これも本当にポケットマネーで支払っているかどうかをチェックしたいところです。

発覚した際にほとんどの政治家が「献金をしてくれるという企業をいちいち調べているわけではないので赤字とは知らなかった」という言い訳をしますが、すでにメディアなどで経営危機が叫ばれている企業や、政治家の地元の有名企業もあり、知らなかったという言い訳をすること自体、意識の低さを露呈しているように感じます。

また、これは道義的な観点からなのですが、国から公的な金融支援を受けているような企業の献金もいかがなものかと考えます。税金を原資とした資金の注入が行われている企業が特定の政治家に献金をするのは、社会に対する背信行為ではないでしょうか。高額の報酬を受け取っている役員がいれば、個人献金をしていないかもチェックしたいところです。

2.特定寄付

「選挙のため」に企業が献金をする「特定寄付」は公職選挙法で禁止されていますが、2003年になって初めて一般に問題として認知され、実際に事件になりました。「地方公共団体と工事などの請負契約を結ぶ個人や企業は、その団体の首長・議員選挙に関して寄付をしてはならない(199条)。政治家の側もこれらの個人、企業に寄付を要求したり、受け取ったりしてはならない(200条)」というものです。

「選挙のための寄付」という構成要件の立証が難しいことから、かなりの自治体で野放しにされてきたことですが、構造的な政と業の癒着を象徴するものともいえます。

2021年の衆議院選挙の直前には、高市早苗議員、萩生田光一議員、小渕優子議員の3氏が代表を務める政党支部が、政府の公共事業を請け負う事業者から寄付を受けたことが明らかになり、問題を指摘されました。

ここからは会員限定です。このほかにも注目点は数多くあります。今回、「収入」をめぐる13のチェックポイントを実例とともに解説します。

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