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使え、でも信用するな〜米メディアで急速に進むChatGPT使用のルール作り

皆さんの周りでも、ChatGPTが話題にならない日はないのでは? 動きが早いアメリカのメディア業界では、すでにChatGPTの使用についてのガイドライン、ルール作りが始まっています。アメリカメディアの最前線を伝えるニューヨーク在住、津山恵子さんの連載3回目では、米メディアがChatGPTをどう使おうとしているのか、レポートします。

文:津山恵子

連載:アメリカメディア最前線

さまざまな仕事の現場に大きな影響を与えつつあるChatGPTをジャーナリストは、どう利用したらいいのかーー。アメリカのメディア業界では、急速にそのルール作りが進んでいる。

アメリカで最初にルールやガイドライン作りが進んだのは大学などの教育の現場だった。学生がレポート執筆に際して、ChatGPTを使った場合、どう見抜くのか、どう評価するのか。試行錯誤がすでに始まっている。

メディアでも記者が「原稿を書く」という中核的な作業で、安易な使い方をしてしまう可能性もある。その結果、正確さを欠く原稿が、デスクに送られてくるリスクも生じるだろう。

トランプの34の罪状を瞬時に要約

そんな中、米デジタルメディア「インサイダー(前ビジネス・インサイダー)」の編集トップが4月14日、ChatGPTをどう編集に取り入れるのか指針を示すメモを社員に送った。参考になるので、その内容を紹介したい。

「チームへ」とするメモを書いたのは、インサイダーのグローバル編集長、ニコラス・カールソン氏。利用を推奨するのは、生成AIの中でChatGPTに限るとしている。

メモによると、カールソン氏は自らChatGPTが記事編集にどう使えるのか、数週間かけて以下の作業を試みた。

  • 記事を書くためのリサーチ

  • インタビューの準備

  • 見出し案のブレインストーム

この間、ニューヨーク州マンハッタン区の検察局検事であるアルビン・ブラッグ氏が、トランプ前大統領を起訴した。その後、トランプ氏がニューヨークの裁判所で罪状認否を行った際、初めて起訴状が公開された。34もの罪状から成る起訴状を読み込むのは、通常多くの記者の分業を要する作業だ。

しかし、カールソン氏がChatGPTに要約させると、起訴状を瞬時にまとめたという。

過去の大統領が起訴されるのはアメリカでは初めてというビッグニュース。記者やデスクは時間との勝負で、記事の切り口を考え、ビデオ作成のアイデアを出さなければならない。カールソン氏は要約をデスクや記者とシェアし、デスクに感謝されたという。

「記事は頭から自分で書け」

こうした試みを踏まえてカールソン氏は、ChatGPTを使う場合の3つの警告を発し、「記事自体をChatGPTや、それに相当する生成AIのチャットボットに書かせるな」と言い渡した。つまり、従来のように、原稿は頭から自分で書き下ろせ、ということだ。

第1の警告は、「AIはジャーナリストではない、君がジャーナリストだ。ファクトを常に自分自身でチェックせよ」。実際に、カールソン氏がこの内部メモを書こうとしてChatGPTを使った検索結果が嘘だったという。彼は、ファクトチェックによって、それを見破った。

生成AIは、バイアスがかかった結果を出すこともある。常に事実や真実が示されると思って信頼してはならない、と警告する。「AIを信頼することは、ジャーナリズムの大惨事につながる」と断言する。

第2の警告は、盗用につながる可能性についてだ。生成AIは、他人の作品をあたかもオリジナルであるかのように記事に使う。気がつかないうちに盗用とならないように、ジャーナリストは常に、ChatGPTの引用元を確かめる必要がある。

第3に、生成AIの文章は、「キレがなく、一般的」になりやすい。参考にはできるが、文章には自分らしさと「インサイダー・スタイル」を忘れず、自分が書いた原稿に誇りを持つようにと促している。

「AIを使うべきだ」。会員向けに公開している後半では、記者がどうChatGPTを使えばよいか、カールソン氏の具体的な提案を紹介します。

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