フェイクニュースまで必要ない 破壊的威力のショートメッセージ
アメリカでは秋の大統領選を巡って、フェイクニュースなどによる選挙への影響が懸念されていますが、ニューヨーク在住のジャーナリスト、津山恵子さんは、手の込んだフェイクニュースよりも、むしろ脅威はショートメッセージやSNSなどによる短い誤情報が大量にばら撒かれることだといいます。こうした情報と正確なニュースのどちらがより大きな影響力を与えるのか。メディアは対抗する術を持っているのでしょうか。津山さんの考察です。
有罪評決の直後にショートメッセージ
アメリカ大統領選挙の年、フェイクニュースやディープフェイクの脅威が深く懸念されている。しかし、そんな手の込んだ情報よりも、古典的だが、短い尖ったメッセージによる誤情報・偽情報が人々により素早く刺さってはいないだろうかと、不安になる。短いだけにスピード感があり、ニュースになる出来事が起きるとすぐに、リアルタイムで人々を惹きつける。その瞬発力と量的な「氾濫」に、ジャーナリストが紡ぎ出す本物のニュースは勝てるのだろうか。
例えば、以下はトランプ氏からのスマホ向けショートメッセージだ。
「裁判システムは不正だ」
これはトランプ氏が5月、ニューヨークの裁判所で有罪評決を受けた直後に発信されたもの。しかし、一般的に法治国家で、裁判が不正に行われることがあるのだろうか。
「私が言ったことは、全て正しかった」
これは、6月27日(米国時間)に開かれた大統領候補テレビ討論会が終わる直前に来たメッセージ。いや、トランプ氏は討論会中、30回以上の間違った主張をしたとCNNが後に報道している。
トランプ氏が2016年の大統領選中、元ポルノ女優に対する口止め料を不正に会計処理し、業務記録を書き換えたとされる裁判で、5月30日、ニューヨーク州地裁の陪審団は有罪評決を下した。大統領経験者が有罪となるのは初めてという極めて不名誉な、歴史教科書に残る評決だ。その評決が出た直後の夕方から夜中までにトランプ氏から3本のショートメッセージが来た。
「トランプから速報:私は、不正な裁判で有罪になった。私は政治犯になった!」
「この国のために祈ってくれ。裁判システムは不正だ」
「ネヴァー・サレンダー!MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)ハットを買おう」
それぞれ、20ワード程度で、数秒で読める。彼のメールやSNSでも同じ文言が踊った。