民主党は猫おばさん、共和党は変人?ソーシャルメディアから生まれる危険な流行語
アメリカ大統領選はこの1カ月余りでバイデン大統領が大統領選から撤退、ハリス副大統領が正式な候補者になったことで、勢いを取り戻しています。ますます結果は混沌とし接戦となっていることで、両陣営の舌戦にも拍車がかかっています。
政治家の言葉のみならず、その一部が切り取られ拡散されレッテル化する。そこにはトランプ氏が始めた根拠に基づかない誹謗中傷によるレッテル貼りが日常化した風景が広がっています。
バンス発言の3日後に売り出されたTシャツ
「子どもがいない猫おばさんたち(Childless Cat Ladies)」「トランプは変人(Trump is Weird)」―ー。
2024年米大統領選挙戦で、民主・共和両陣営から発信された言葉が、バイラルになり「一人歩き」する現象が起きている。
候補者らからの発言の一部がソーシャルメディアであっという間に拡散し、おもしろおかしい映像や動画が拡散されていくミーム(meme)状態となり、数日中にはTシャツとなってオンラインで発売される。しかし、元の発言をたどると、正確さに欠けており、その内容を信じるのは危険だ。
決め台詞を拡散させるのがうまい「トランプ化」が共和党だけでなく、民主党にも広がっている。ソーシャルメディアでの影響力が以前よりも重要となり、正確性や洗練性よりもバズりに頼っている傾向が増している。
「人生に惨めな思いをしている子どもがいない猫おばさんたち」は、共和党の副大統領候補となったJ.D.バンス上院議員の発言。このフレーズが、夫エムホフ氏との間に子どもがいないカマラ・ハリス民主党大統領候補を攻撃していると思われ、あっという間に拡散し、無数のTシャツが発売された。
バンス氏の元の発言は7月22日(米東部時間、以下同じ)にFOX Newsで放送された。
「この国は、民主党と企業財閥(オリガルヒ)によって、そして、自分の人生や自分の選択に対して惨めな思いをしている子どものいない猫おばさんたちによって事実上運営されている。だから彼らは、この国のほかの人々も惨めにさせたいのだ。これは基本的な事実だ」
「カマラ・ハリス、ピート・ブティジェッジ(バイデン政権の運輸長官、同性愛者であることをカミングアウトしている)、アレクサンドリア・オカシオ-コルテス(下院議員、独身)を見てほしい。民主党の将来はすべて、子どものいない人々によってコントロールされている。私たちの国を、(将来についての)利害関係が直接ない人たちに委ねることに、どのような意味があるのか?」
「実際に子どもを持つ人たちをもっと支援すべきだ。なぜなら、そういう人たちこそ、最終的にはこの国の未来に、より直接的な利害関係を持つ人たちなのだから」
発言は、共和党・保守派の価値観が否定する同性愛者や家庭を築かない女性を攻撃している。人権的な観点からは差別だが、共和党支持者なら、テレビの前で歓声を上げる内容だ。
バンス氏には子どもが3人いる。一方でハリス氏は、夫の2人の連れ子を育ててきた。バンス氏はハリス氏らを「子どもがいない惨めな変わり者」と中傷した過去のインタビュー映像がソーシャルメディアで拡散し、大きな反発を招いた。こうした背景もあり、発言が注目を浴びた。
問題は「子どものいない猫おばさんたち」だけが、この発言から切り取られたことだ。
バンス氏の発言放送の3日後には、オンラインでTシャツが発売されているのを発見した。Tシャツの胸には「Childless Cat Ladies for Kamala」「Childless Cat Ladies Vote」などと書かれている。Tシャツは、Instagramなどソーシャルメディアの広告で、民主党支持者やペット好きを刺激する。「Childless Dog Ladies(子どもがいない犬おばさんたち)」というTシャツまで表れた。
子どもがいない女性や猫に対する差別だとして、「(トランプタワーがあるニューヨークの)5番街を猫がデモ行進する」といったお笑いネタも飛び交った。