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オープンデータ活用術・完全版【第3章】①上場企業を調べるためのツール

D-JEDI理事:熊田安伸

企業を調べるなら、まずは登記簿謄本と会社四季報、というのは30年以上前に私が記者になった頃の話。もちろん、今でも登記簿謄本などを調べるのは重要です。ただ、登記情報もネットで取れるようになったとはいえ、有料。もっと手軽に、しかも深い情報を調べることはできないでしょうか。ここからは、企業情報のさまざまな調べ方についてテクニックを紹介していきます。


「EDINET」で上場企業を調べる

上場企業の「有価証券報告書」を入手できるのが、金融庁が運営する「EDINET」です。

EDINETのホームページより

有価証券報告書とは、金融商品取引法で上場企業などが開示を義務付けられているもので、企業の概況や事業の内容、役員や従業員の情報、株式の状況、財務諸表などが分かるものです。そもそもは投資家の保護のために設けられた制度ですが、記者にとっては企業情報を入手するための宝の山でもあります。

略して「有報(ゆうほう)」と呼ばれ、社会部に上がったばかりの頃、先輩記者から「おい、あの会社の有報を取ってきてくれ」なんてよく頼まれました。登記簿と並んで調査報道記者、事件記者に最も古くから使われてきたオープンデータですが、今では「四半期報告書」や「訂正報告書」、株式の「大量保有報告書」もすべてEDINETで入手できます。

有報にうそを記載するのは犯罪です。金融商品取引法違反に問われて懲役や高額の罰金刑の対象となり、上場廃止の処分を受ける恐れさえあります。「真実を記載している」という投資家との約束の上での情報公開なので情報性は高く、記事のソースとして使えます。逆に考えれば、有報に書いてあることにうそを見つければ、スクープになるといえます。

ではどんなことが分かるのか、具体的な例を見ていきましょう。世界的自動車メーカー、トヨタ自動車株式会社の有報を見てみましょう。PDFなどの形式でもダウンロードできます。

入手すべき情報の一つがやはり前の章でも紹介した「財務諸表」です。中でも「貸借対照表(BS)」「損益計算書(P/L)」は特に重要です。トヨタほどの大きな会社だとなかなか見えないかもしれませんが、本当に多くの情報が含まれていて取材のヒントになります。

「役員の状況」には登記簿と違って、役員についての豊富な情報が記載されています。名前、生年月日、略歴、任期、所有株数まで分かります。トヨタの役員の状況を見ると、経済産業省の元事務次官を取締役に、元国税庁長官を常勤監査役に迎えていることが分かります。いわゆる「天下り」ということでしょうか。

「役員の報酬」には、年間1億円以上の報酬を受け取る役員の名前と報酬額が開示されています。トヨタの場合、豊田章男社長の報酬は、2022(令和4)年6月に提出された有価証券報告書では6億8500万円であることが分かります。

「従業員の状況」を見れば、社員の「平均年間給与」が分かります。トヨタ自動車の場合は、857万円余りだということです。

一方、ソフトバンクグループの役員報酬を調べると、孫正義氏は1億円になっています。しかも他の役員の方が、ずっと高い。

あれだけの企業のトップとしては少ないように見えますが、孫さんは個人大株主なので、これとは別に多額の株式の配当を受け取っているとみられます。「大株主の状況」を見ると、個人で最も多い27.94%の株を保有していることが分かります。

株主の話が出たので、「大量保有報告書」を見てみましょう。これは有価証券報告書とは別で、上場企業の株式の5%を超えて保有したら提出が義務付けられるものです。やはりEDINETに掲載されます。ある日突然、「物言う株主」が株を買い集め始めた、なんてことに気付けるケースもあります。

上場企業の情報を調べるなら非常に便利なEDINETですが、掲載期間は直近5年となっています。それ以前のものを調べたい場合は、国立国会図書館に行けばマイクロフィルムの形などで収蔵されているので、そちらで調べることができます。

「適時開示情報(TDnet)」で速報を入手

有報と同じく、投資家保護のために行われているものとして、「適時開示情報」があります。投資家の判断に影響を与える事柄があった場合に、上場企業が速やかに開示する情報です。「適時開示情報閲覧サービス」で入手できます。

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