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(文字起こし)D-JEDI設立記念シンポジウム第1部「ジャーナリズムの再構築とメディアのDX」

シンポジウム第1部「ジャーナリズムの再構築とメディアのDX」。モデレーターは浜田敬子さん、登壇者は荻上チキさん、能條桃子さん、米重克洋さん、古田大輔さんです。

【浜田】
先ほどの会見でも申し上げたんですけども、私たちは半年ぐらい議論をする中で、そもそもデジタル時代のジャーナリズムってこれまでのジャーナリズムと変わっていかなきゃいけないんだっけとか、もう少し可能性があるんじゃないのかとか、もっと担い手もやっぱり増えるんじゃないのかということを議論してきました。

そこで、これまでの私たちがその新聞とかテレビとか雑誌で担ってきたものが、何様だっていうところから発想を広げて、担い手も増やしていくことがジャーナリズムを太くしていくものになるんじゃないか、ジャーナリズムの将来のために必要なんじゃないか、と思いまして、今日のこの登壇者の方に集まっていただきました。

最初に自己紹介からお願いしたいと思うんですけども、私の方から向かって、荻上チキさんに来ていただきました。TBSラジオのsessionファンの方も多いと思います。もう一つの活動として社会調査支援機構チキラボを立ち上げられて、所長を務めていらっしゃいます。調査を通じて社会課題を明らかにしていくという、すごく面白いジャーナリスティックなことを始められたなと思っています。チキさんからまず自己紹介お願いします。


自己紹介

荻上チキさん「一緒に活動し、発信し、世の中を動かす」

【荻上】
皆さんこんにちは。ただいまご紹介に預かりました評論家でラジオパーソナリティをしていまして、ストップいじめナビという代表もしておりまして、最近社会調査支援機構チキラボという団体も立ち上げて活動しています。荻上チキと申します。

特に今日関わるテーマで言えば社会調査支援機構チキラボという団体を作ってから色々と見えてきた課題というのもあります。例えばこれまでですと、裁判で何かを戦う場合には、弁護士が味方につく。病気を治したいのであれば、看護師や医師がそばにつくということになるわけですが、社会問題を解決したいということを、何かしらの当事者の方が思った時に、その伴走者というのがいなかったわけですね。

伴走に当たって様々な実態、あなたが遭遇しているのはどんな社会問題なのか、ということを可視化をする。そのお手伝いをするという点と、その社会問題を世の中に問いかけていくという広報面でのアシスト。こうしたところが不十分だなというふうに感じたんですね。

そこでラボでは調査と広報を当事者の方や様々な企業団体の方に提案して、一緒に活動し発信して世の中を動かしていくという活動をしています。今日はその話もできればと思います。よろしくお願いします。

【浜田】
ありがとうございます。ジャーナリズムの限界というか、ジャーナリズムって当事者になっちゃいけないとか、公平中立でなきゃいけないというのに縛られていて、本当に社会を変えていくことができたのか、というジレンマみたいなものを皆さんも感じてきてらっしゃると思います。そのあたり問題意識をお持ちなんじゃないかなと思って、後で詳しくお話し聞きたいと思っております。

そして、能條桃子さんに来ていただきました。能條さんはノーユースノージャパンの代表として、若い世代にもっと政治参加をということで、活動していらっしゃいます。アクティビストという立場からなんですけども、ジャーナリズムとアクティビストってどこが境界なんだということも含め、今日の議論に伺っていただきましたので、自己紹介お願いします。

能條桃子さん「発信する側とアクティビストの両面から」

【能條】
ありがとうございます。初めまして。NO YOUTH NO JAPANという、若い世代の政治参加を促進する団体の代表をしております、能條桃子と申します。NO YOUTH NO JAPANは、活動を始めたのは3年ほど前なんですけど、主にInstagramを使って、政治だったり社会のことをわかりやすく解説する、発信する、という活動をしています。それ以外にも、政治だったり、社会のことって話しづらいっていう雰囲気がある、というふうに思っていて、それを楽しく話せたりとか、話せる場を作るみたいな活動もしていたりします。NO YOUTH NO JAPANの代表をしながら、ご紹介いただいた通り、個人のアクティビストとしても活動していて、主にジェンダーと気候変動に関心があります。

今日はNO YOUTH NO JAPANのInstagramの方は発信する側、そして個人のアクティビストとしては、メディアの方々に記者会見をして、取材していただいたりとか記事にしてもらって届けてもらうところで、両方の関わりがあるかなと思うので、その立場で話せればと思っています。よろしくお願いします。

【浜田】
ありがとうございます。これまで多くの新聞テレビが若い人に投票行ってもらいましょう、若者の政治参加が大事と言いながら、全く社会課題が解決できてない。そういうことも含めて、メディアの伝え方をどうしたらいいのかということを、能條さんに聞いてみたいなと思っております。よろしくお願いします。

そして次が、米重克洋さんに来ていただきました。JX通信社代表取締役です。JX通信社をご存知の方、多いですよね。ビッグデータとテクノロジーでニュースを変革する報道ベンチャーと名乗ってらっしゃいます。米重さん、自己紹介お願いいたします。

米重克洋さん「テクノロジーでビジネスとジャーナリズムの両立を実現する」

【米重】
ただいまご紹介いただきました、JX通信社代表の米重と申します。我々JX通信社は報道ベンチャーとして「ビジネスとジャーナリズムの両立を、テクノロジーでどう実現するか」ということをテーマにやってきております。

報道機関各社様とのお付き合いでは、SNSなどのビッグデータから災害・事故・事件などの情報をいち早く見つけて、それを報道につなげていくFASTALERT(ファストアラート)というサービスですとか、選挙の情勢調査やその報道のように、人海戦術に相当な資金をかけてしまうところを機械化し、省人化しながらコストを抑えて同等以上のクオリティの調査ができるソリューションなど、幅広くテクノロジーを持ち込んで、コストカットだけではなく報道をグレードアップしていくことにチャレンジをしている会社でございます。

まさにメディア・報道のDXを、DXという言葉がないときから目指してきました。テクノロジーで、いかに人間の仕事を機械に任せていけるか、人間が本当にやるべきことに集中できるか、をテーマに取り組んできたわけです。今日はそういった立場から皆様としっかりお話をしていければと思っております。よろしくお願いいたします。

【浜田】
ありがとうございます。米重さんはメディアの出身ではなく、ニュース好きというところから起業されたと。そういう立場からメディアの業界以外の人にこの業界に入っていただくことで、ジャーナリズムが分厚くなるのじゃないかなと思っています。

そして最後にD-JEDIの理事でもあって、メディアコラボの代表でもある古田さんにお願いします。古田さんいろいろな経験を経て今日も登壇してもらってます。

古田大輔さん「ブロガー出身者から学んだ」

【古田】
ありがとうございます。僕の経歴を通じて、なぜD-JEDIとかジャーナリズムの再構築みたいなアイディアにたどり着いたかというと、朝日新聞時代、2014年にデータジャーナリズムハッカソンという企画をやったんですよね。

当時、データジャーナリズムをやってみたいと思ったけれども、社内にその知見が十分に溜まっていない。それで、社外のエンジニアやデザイナーを招いて、70人でチームを分けて、それぞれ3日間でコンテンツを作ってしまおう、みたいなのをやりました。その時に他業種の方々のパワー、デザイナーとエンジニアが加わることで、我々ジャーナリストが手に入れた情報が素晴らしいものになるんだ、という経験がありました。

その後、バズフィードジャパンの創刊編集長になって気づいたことがあります。バズフィードには新聞社出身もいれば、ネットメディア出身もいれば、ブロガー出身者もいたんですよね。ブロガー出身者たちの記事の素晴らしさ。読者との距離感のつかみ方とか、そこに私は新聞記者出身者として、自分が一人称で書く文章とブロガー出身者の書く一人称の文章の本質的な違いにすごく打ちのめされました。僕よりも10歳以上若い人たちでしたけれども、既存の組織の中にいるだけでは学べないものを組織を超えて学びたいな、というふうに思うようになりました。

それはテキストに限らず、動画もそうですし、音声もそう。みんなで分かち合える場として、このD-JEDIを作っていきたいと思っております。本日も並びがみんなバラバラの経歴なので議論を楽しみにしてます。よろしくお願いします。


あなたにとってジャーナリズムとは

【浜田】
それでは1問目。皆さんにスケッチブックに答えを書いて頂いたんですけども、質問が「あなたにとってジャーナリズムとは」。大きな質問をさせていただいているんですけども、皆さん、書いて頂いていますでしょうか。

ジャーナリズムって聞いた時に、想像するものが皆さん違うと思って、それ自体を再定義する必要があると思っているので、それぞれが思ってらっしゃることを書いて頂きました。

チキさん、書いて頂いたでしょうか。


荻上「調査に基づく応答」

【荻上】
「調査に基づく応答」と書きました。当然ながらジャーナリズムは調べるのが仕事で、それを報じるのが仕事です。調べただけで取り上げなければ、それは報道ではありませんし、ただ調べず拡散するだけでは、やはり報道ではありません。両方が必要になるんですね。

時代背景の意識というのがありまして、メディア論の中では、90年代まではマスメディアと言う大きな権力に対して、市民が力を身につけて抵抗していく、批判的に吟味する力が必要だ、そうしたような感覚で見られるリテラシーの議論というのが出発してきたわけですね。

ところが、インターネット時代になってきますと、自分の隣にいる人、自分がフォローしているTwitterアカウントが、自由に当事者として発信できる。しかし、その当事者性ゆえに様々なバイアスがかかっていたり、あるいはフェイクニュースだったり流言だったりを広げてしまうことが起こり得るわけです。

先ほどの浜田さんの指摘だと、ジャーナリズムが当事者になってはいけないという話があったんですけど、逆に当事者がジャーナリストになれるのか、という問題もあるわけです。すなわち当事者報道というのはあり得るのか、と。

実際、あり得るかのようには見えるわけです。Twitterなどで、例えば地震があったりすると、家の周りはこうなってます、それが一次ソースになって震災とか災害の写真とか動画とか、そうしたものを提供することはあるわけですね。では、その動画を拡散した段階でジャーナリズムが成立したのかといえば、それが実際どうなのかを調べたり、背景がしっかりと分かった上で報道する、応答するというプロセスが必要になってくるわけです。

なので、当事者ジャーナリズムはおそらくあり得るが、難しさもあります。やはり、既存のジャーナリズムや第三者の介入によって、検証されて応答されることが必要となる。絶え間なき応答がジャーナリズムにはいつでも必要となる。

とりわけ、これまでは上からやってくる情報に対してどう距離を取るかということが課題だったのが、横から拡散生まれてくる情報に対しても適切に応答していく、ジャーナリズムはそういった時代的な要請を向けられているタイミングであるので、改めてそのことを考えることが必要かなと思ってます。

【浜田】
ありがとうございます。デジタル時代は、横からフラットに拡散してくる情報と当局から、上からくる情報と両方のどちらが大事なニュースなのか、ということも含めて調査をしていくということが大事ということでした。能條さん、いかがでしょうか。能條さんにとってのジャーナリズムとは。


能條「わたしたちの社会を下からつくる」

【能條】
「わたしたちの社会を下からつくる」っていう風に書きました。NO YOUTH NO JAPANの活動でも、私たちが生きたい社会をつくろうっていうのをキャッチコピーにしていて、要は民主主義ってなんで大事かって、自分が生きている社会は、課題がなくなることはなくて、でも良くなるって思えるから付き合うっていう風に、社会の他の人たちと一緒に生きていくことを諦めずにいられるのかな、という前提を持っています。

そうなった時に、私たちとか社会ってぼんやりしていて、人によってくくりって違うと思うし、みんなにそれぞれの意味、世界があるから、一つの枠を作ってっていう風には言えないと思うんですよね。

一つ一つの物事に対して、その枠を作っていくのが、私たちが普段接するメディアでのニュースだったりするのかな、と思っています。

なぜ「下からつくる」と書いたかっていうと、社会って言った時に制度だったり、国だったりが、人々を統治するために上から持ってくる、枠みたいなもので社会はあるのかと思うんですけど、それはあくまで枠であって、私は活動をしながら、私たちが生きる社会を、私たちでみんな一人一人見ている社会世界が違うし、それでも今ここは重なってるんだって思える部分があるから、一応社会っていう言葉が使えると思ったので、「下からつくる」という風に書きました。

【浜田】
ありがとうございます。私たちという定義とか、下から作るというものが、じゃあ今の
レガシーメディアでできてるのかどうか、みたいなことを後でお伺いしたいと思っています。米重さん、なんて書いていただいたでしょう。


米重「社会のライフライン」

【米重】
はい。私は「社会のライフライン」と書かせていただきました。今までの報道機関が果たしてきた役割というのは、平たく言うと、情報のライフラインとして事実の裏付けをして、正確に報道をしていく。そのことによって、人の命を救う、あるいは公益に資することを明らかにしていくところが役割だったと思います。しかし、現状は今までのいわゆる4マスのビジネスモデルが成り立たなくなってきて、それが巡り巡って今日こういった形でデジタル・ジャーナリスト育成機構がスタートするといった大きな問題意識の背景にもあると思います。

今はまさに「消費者が発信する時代」になってきているところが、今までの4マス中心の社会時代からの大きな変化です。消費者が発信する時代においても、正確な情報をなるべくしっかり裏付けされた形で社会に発信されていく、正確な情報が多くの人に届いていく仕組みをどうしたら作れるか、というのは私にとって重要な問いだと思っています。究極的には、それが4マスからSNSとか中心の時代になったとしても、引き継がれるべき役割で、ジャーナリズムにおいて果たされるべき役割だとすると、ジャーナリズムとはまさに「社会における情報のライフライン」といった言葉になってくると思い、このように書かせていただきました。

【浜田】
ありがとうございます。皆さんそれぞれ書いていただいた中には今のメディアとかジャーナリストに対する問題意識みたいのもあると思うので、後で伺えればと思っています。古田さん、最後にお願いします。

古田「情報は定食だ」

【古田】
僕の書いたものは米重さんに近いところがあるんです。米重さんにコメントをすると、僕が大変だと思うのは、ジャーナリズムとか報道って、社会のライフラインだと思うんだけど、問題はそのジャーナリズムのライフラインが尽きそうになってるっていうところです。そしたら社会のライフラインも尽きますよというところが、すごく大きな問題だと思ってます。

僕はジャーナリズムについてより、範囲を広げて考えたいなと思っています。僕は「情報は定食だ」と思ってるんですよね。情報って毎日食べないといけない。フランス料理のフルコースみたいにたまに食べるもんではなくて、毎日食べてそれを元に毎日の行動を決めるわけですよね。

天気予報を知っておかないと、傘持っていくかどうかわかんないみたいなレベルから、じゃあこんだけの為替差で、円が安くなってきたら貯金どうするとか、誰に投票するとか。情報を摂取しないと選べないんですよね。毎日必要で、一定の質のものをバランスよく食べとかないと、知的健康が養われていかない。情報全てが、僕は知的精神的健康を養うもんだと思うんです。情報をバランスよく定食をバランスよく食べるにはジャーナリズムというものが、情報産業の一角を占めていないといけない。

情報産業の中からジャーナリズムが消えてしまったら、定食も偏ったものしか食べられなくなるんじゃないのかと感じています。

【浜田】
ありがとうございます。皆さんそれぞれ定義を書いていただいたんですけども、次の質問は、今のジャーナリズム報道とかマスメディアと言われるものに対して、どんな問題意識を持っていらっしゃるのか。

私の推測ですけども、皆さんの今のそれぞれの活動っていうのは、そこに対するある程度の問題意識があってこその活動でもあるのかな、とも思っています。

まず、米重さんからお聞きしたいんですけども、テクノロジーによってできるところはテクノロジーで、人ができるところに人は集中してほしいということからJX通信社を立ち上げられていると思います。

米重さんはその時も感じてらっしゃって、メディアの抱えている問題っていうのは数年前ですけど、それが今、数年経ってみて少し解消されてるのかどうなのか、そのあたりも含めてお伺いしてもいいですか。

報道、マスメディアへの問題意識

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