見出し画像

広告価値を生み出すメディアの4条件 ニューズピックスの強さの背景

ニュースメディアのビジネスモデルの柱である広告と課金。デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)が2022年12月14日に開催したセミナー「メディアはどう稼ぐか 広告と課金を伸ばす」の後編は、株式会社ニューズピックス Brand Design Division事業責任者の奥野陽介さんが急激に成長したニューズピックスの広告事業の舞台裏を語ります。

モデレーター:古田大輔(D-JEDI理事、メディアコラボ代表)

広告価値のベースとなる「メディアの条件」が大前提

NewsPicksの奥野と申します。今回は、メディアはどう稼ぐか、広告と課金を伸ばすための広告編、としてお話いたします。先ほどのTakahashiさんのお話は、新聞社という紙媒体を持つメディアのデジタル課金への移行についてのお話でしたが、我々NewsPicksはデジタルだけになりますのでご了承いただければ幸いです。

自己紹介ですが、私は通販コンサルから、デジタルメディアの広告の運用制作、マスメディアとの統合プランニングなどに関わり、約18年広告分野に染まっております。今日は特に広告でどう稼ぐかというところなので、どういう価値を出してどうマネタイズするのか、ということについてお話をしていきます。

広告について語るときに大前提として僕が重視しているのが、広告価値のベースとなるメディアの条件です。ここを抜きにどう広告でマネタイズするのかを語ったとしても実際には建設的な話にならないと思います。そこで、このベースとなるメディアの条件について最初にお話します。次に、実際にどういう広告価値を生み出してマネタイズするのかという点についてお話しし、最後にまとめ、という流れでお話いたします。

まず、広告価値のベースとなるメディアの条件について、今日ご参加いただいている皆さんの経験によって認識がそれぞれ異なることもあると思いますが、一旦デジタル広告の環境を簡単に振り返ることで目線を合わせていけたらと思います。

デジタル広告の10年の変化を振り返る

僕は2010年頃に博報堂DYに入社したのですが、当時はパソコン全盛期で、ヤフーのブランドパネルが3000万円でした。博報堂、電通でそこをどれだけ押さえるのか、といった戦いをしていた時代でした。

そこからスマホが普及して、色々なアプリが立ち上がりました。それと同時にキュレーションサイト、NAVERまとめ、WELQ、MERY、iemoなどが全盛になってきました。スマホやWebサイト上でのトラフィックがかなり増えて複雑化し、ビッグデータの中からちゃんと面で人々の行動を捉えて配信していくことが増えてきたのが2013年くらいでした。

キュレーションサイトについて詳しい方はご存知だと思いますが、WELQで事件がありまして、そこからGoogleのアルゴリズムを含めて、検索して来訪することに関して厳しくなって、Webメディアの爆発的成長はしにくい時代になり、その状況は継続しています。

過去を振り返ると、例えばNAVERまとめは、月にMAXで23億か25億PVを得ていて、タイアップ広告を1回出しただけで1つの記事で80万PVいくような、信じられないトラフィック量を得ていた時期がありました。今はもうそういう時代ではなくなり、Webメディアの成長は難しい時代かなと思います。

一方でプラットフォーマーは2013年頃から既に存在していましたが、Twitter、Facebook、LINEや、YouTube、最近ではTikTokがありますが、そうしたところが2016年以降に全盛になってきています。こうした時代背景で広告環境がどのように変わってきたのかを見ていきます。

広告市場は圧倒的にプラットフォーマーが強い

アドネットワークやDSPの側面から見ますと、スマホで取れるデータも相当増えてきましたし、TVerやサイネージ、リテール関連のものとか、決済関連も増えてきているのでそういったところはより進化をしているところがあります。

デジタル広告全体の中を見ますと、プラットフォーマーが圧倒的なトラフィックを誇り、リーチもできますので、広告市場の8割〜9割ぐらいはプラットフォーマーによって抑えられている状態です。

デジタル広告全体の市場規模は2兆円くらいありますが、その8割〜9割がプラットフォーマーによる運用型の広告です。残りの1割は、我々NewsPicksのようなニッチメディアも含めて、バーティカルメディアと呼ばれるところが取っている感じになっています。

実際こうした経緯を辿る中で、Webメディアがどうマネタイズしていくのかとなると、ネットワーク広告でマネタイズするのが一般的なことかなと思っています。

そもそもテキストコンテンツの量や質によってちゃんとメディアにおけるユーザーや、SEOに対しても質の良い状態ができていて、トラフィックが増えていけば、そこは全体のサイズ感に伴って広告の課金も増えていくことができます。

しかし、もしこれが成長しにくい状況になったときに、ちょうど僕も前職でオウンドメディアの支援をしたときに経験したことですが、どんなサイクルに陥るかご紹介します。

トラフィックが少ないメディアが陥る悪循環

トラフィック総量が限られると、1人あたりの回遊性を上げなきゃいけなくなります。サイトによっては一つの記事に6ページ分あるような形で回遊性を増そうという動きをします。

そうすると、接触数は全体として増え、一つのコンテンツで触れる体験をなるべく増やすことによってインプレッションが取れるようにするので、記事の真ん中、記事の横、上、下、といったところに広告を配置し、次ページに遷移するときにポップアップ広告を入れたり、記事下のレコメンドのところにもいくつか広告があるという形になり、極力広告を増やすようにしていかないとなりません。

そうすると、ユーザー体験としては好ましくない状況になりますので、全体のアクセス数が減少してしまいます。そうしたときに広告、例えば、タイアップ広告したときに、自社の実際の集客量からすると足りなくなり、例えば、アウトブレインとかポップインなどのサービスを使って、比較的安価な広告枠から誘導しようとします。

そうすると、メディアに来てなかった人たちを呼んでくる形になるので、直帰率90%のような、とりあえず押したけど間違えてしまった、みたいな人も出てきて、結果的には相性の悪いユーザーが増えて広告価値が減少していく悪循環に陥り、Webブラウザの中のメディアとしては非常に苦しいマネタイズだなと、前職のときに痛感しました。

健全な広告価値を保つための4つの条件

いまのNewsPicksの「メディア広告事業」になぜ僕が入ったのかを考えますと、先ほどお話しました「広告価値」のベースとなるメディアの条件をNewsPicksは満たしていたなと、振り返ってみて感じています。

このメディアの条件には、次の4つがあります。「メディアのポジショニング」「アプリメインであること」「課金で一定の売上・利益を作っていること」「クリエイティブを内製化していること」。これらの4つを重視してNewsPicksに入ったんです。

広告として売るためには当然、選ばれる必要がありますが、明確に選ばれやすいのはメディアの「ポジショニング」として競合優位性があることが条件になります。

例えば、NewsPicksは20代~30代のビジネスリーダー層が顧客ですが、そうしたメディアは他にあまりありません。僕が前職でクライアントのブランディングをしていたときは、「ターゲットに届けたい」という要望があったときに、そのターゲットしかいないメディアを広告出稿先として選んでいたので、そうした「ポジショニング」があるかどうかは非常に重要だなと思っています。

2つ目の「アプリメインであること」は、広告を作る過程にも依存する話で、ユーザーの関与が高いかが問われる部分です。後ほど詳細をお話しますが、アプリであれば日々利用します。Webサイトで検索して接触するコンテンツと比べるとユーザーに近いメディアとして捉えられるので、ユーザーが濃くなる傾向にあります。

それと連動しますが、「課金で一定の売上と利益を生み出している」という3つ目の条件は、収益基盤の健全性になります。広告だけに依存しているメディアはたくさんありますが、利益が広告1つしかないと、先ほどのマネタイズのために陥る悪循環の事例と同じで、いかに広告収益機会を増やすかに寄りすぎてユーザー体験を損ねてしまいます。メディアが健全な状態を保つためには、課金が必要だと思っています。

課金が多ければ、当然、4つ目の条件である「人を内製すること」もできるようになります。NewsPicksは、デザイナーや編集者、イベントの人員を全員正社員として抱えていますが、自分たちで変えていくことができるかという点も含めて重要に思っています。

「若年層」「未来の話題」というポジショニング

具体的にそれぞれ見ていきます。まず、ポジショニングですが、僕のポジショニングのイメージとして、4象限を作成してみました。

縦軸は上が「若年層」、下が「高年齢層」で、横軸の左側が「現在の話」をしているか、右側が「未来の話」をしているか、という4象限です。賛否あるかもしれませんが、NewsPicksは基本的に「若年層」に向けて、「未来の話題」を語る右上のポジションを取っておりまして、これが重要な一つのキーになると思っています。

広告を出稿する際、企業側のマーケティング目線で事業成長を作ろうとする視点で考えます。どのメディアを使えば企業の課題が解決されるのかを考えるときに、他社と違うことが明確に選ぶ基準になりますので、ここはひとつ大事なポイントだと思います。

WEBよりもコアユーザーが集まるアプリ

加えて、アプリかWEBなのか、という軸で整理したいと思います。この2つの軸のどちらなのかで、ユーザー層や、トラフィックとして重視すること、それに対してどういう広告体験を作ることができるか、ということで環境が変わってきます。

アプリは、コアユーザーが一見さんよりも多いです。当然一見さんもアプリにはいますが、1回ダウンロードしてちょっと使ってみて、使わなくなったらすぐにやめていくので、結果的に残っている人たちはコアユーザーが多くなります。

そうすると、新しく人を増やす仕組みは、当然、広告を使って課金させるのもそうですが、サービスの評価、つまりは、アプリの体験が全てになります。そうすると、アプリの体験にフォーカスしていきますので、ユーザーに向き合った広告体験をいかに作るかが循環としては正解となります。ユーザーに向き合った広告体験に注力できるのがアプリの特徴です。

一方で、WEBはコアユーザーも当然いますが、検索して来る一見さんが多いのはどうしても否めません。特に月間PV数で3000万〜1億を超えてくるサイトはたくさんありますが、そういうサイトは基本的にトラフィック重視で、SEO対策をして極力色々なパブリッシャーに分散化して、そこからサイトのPVを増やしていきますので、検索アルゴリズムに向き合わざるを得ないのが現実です。

そうすると、コアでそのサービスを使わない人向けに出していくので、広告を作るときにクリック率(CTR)が高くなるタイトルにして、例えば「ポイントが貯まる」など、読んでもらうためのインセンティブを提供していかないと見てもらえない環境になりやすいです。従って、広告を作る価値のベースとして、アプリかWEBかは重視しているところです。

振れ幅の多い広告だからこそ、安定には課金

次に「課金で一定の売上を上げているか」です。直近の我々の決算で発表しているもので、すごく良い数字ではありませんが、おおよそ半分広告、半分課金という形になっています。年ベースでいくと、今広告では30億円弱くらいありまして、課金でも同じくらいですので、それによって利益自体はベースとして埋めている形になります。

広告ビジネスは、ネットワーク広告は積み上げ式に近いですが、タイアップ広告は季節の影響も受けますし、不況になったときの影響を受けやすく、ブレ幅がどうしても大きくなります。

だからこそ、課金があることによって健全な経営状態を作りやすいですし、長期的な収入計画を立てやすいのでそうした健全性が、ユーザーにしっかり向き合って、長期的にコンテンツの方向性を考えることを可能にします。その環境があるかどうかは、大きいと思います。

内製で新しいものを作り出す

最後の「クリエイティブを内製化できているか」についてです。実際メディアの場合、皆さんもいろんなメディアを運営されると思うんですけど、どうしてもメディアとしての「旬」はあると思います。

新しく登場したWEBメディアの場合、色々なPRをして注目されるのは最初の2〜3年で、その後は緩やかな成長になります。そのときに常に新しいものを自社で作り出すことができるかどうかが、そのメディアが長く社会の中で生き残っていくためにも重要なことと思っています。

改めて「メディアのポジショニング」、「アプリメインであること」、「課金で利益を上げていること」、「クリエイティブを内製化していること」の4つが循環して回っているかどうかは、広告を作る上で非常に重要なこととして強調したいと思います。

どのように広告でマネタイズするかという戦略を考えるときに、この4つがなければ、価値の源泉、コンセプトを作ることができない、というのが正直あります。どういう広告を作ればいいのかを考える上で、我々はどういう価値を出しているのかということと紐付いてきますので、そこを考えていただくのがいいんじゃないかなと思います。

ユーザーとクライアントにとって「マストハブ」か

では、広告について見ていきます。どういう価値を出してどうマネタイズするのか。前提条件としてプラットフォーマーほど圧倒的なリーチ、つまり、ユーザーが常に接する関与ができない我々NewsPicksのようなバーティカルメディアの場合、ということでお話させていただきます。

大きく2つの方向があります。1つは旬のメディアになるか、もう1つはユーザーかクライアントにとって「マストハブ」になるかという2つです。

旬のメディアになるというのは、新しくメディアを立ち上げて1、2年ぐらいは色々なPRネタ、例えば100万人突破とか、何億PV突破みたいな話題があれば、一定の新規性を出せます。そこに広告出稿する顧客は一定数いますから、新規性で価値が出せます。

それでも、最終的には広告を出稿した上で、それが効果として得られるのかというのは、マストハブになっていないと顧客はどんどん離れていってしまうので、誰かのマストハブになることが非常に重要です。

NewsPicksでは、スポンサード記事(350万円〜)、番組協賛(600万円〜)、イベント(1200万円〜)という形で、それなりの単価をいただいてやっています。他にバナー関連もありまして、こうしたコンテンツやコンテンツフォーマットを作って、価値を届けていくということをしています。

皆さんの自社の状況とNewsPicksとの比較もしていただければと思うんですが、我々は圧倒的にBtoBのビジネスで企業からの出稿が多いです。経済メディアなので、ビジネスマンが見ているメディアとしてBtoBと相性がいいのはもちろんのこと、BtoCのユーザーもいるんですが、BtoCであれば、リーチを求めるとなると圧倒的にプラットフォーマーに広告を出した方がいいですよね。なので、結果的にBtoBのビジネスがメインになっています。

会員向け公開となる後半では、具体例や質疑応答を通じて、広告やメディアが提供する価値の本質に迫ります。会員の方は、セミナーのアーカイブ動画や資料も視聴可能です。

ここから先は

13,156字 / 2画像