オープンデータ活用術・完全版【第1章】⑤入札を調べる
文:D-JEDI理事 熊田安伸
まずは基本の入札調書を入手しよう
行政事業レビューシートなどが使えないときや、一つ一つの事業の受発注を詳しく見たいとき、あるいは「談合事件」の取材を行うときに必須の資料が「入札調書(入札経過調書)」をはじめとした、入札関連資料です。以前は情報公開請求でしか入手できませんでしたが、最近では公開する官庁や自治体が増えてきました。
例えば、東京都の千代田区のホームページでは、発注した公共工事の入札経過調書を月ごとに公開しています。この原稿を書いている2023年1月の入札経過調書に分かりやすいものがあったので、見てみましょう。道路維持工事の入札のようです。
千代田区が設定した予定価格が2016万円余り。予定価格というのは、発注する自治体側がこの事業に出してもいい金額の上限で、その金額以下で最も低い価格で入札した業者が落札できるわけです。この事業では3社が応札し、最も低い1620万円で入札した企業が落札していることが分かります。
入札調書で特に注目するのは、予定価格に対する落札価格(自治体によって表記が違いますが、この千代田区の調書でいうと、入札価格に税込みの「落札(見積)金額」1782万円)の割合「落札率」です。この場合は88・37%、書類上は特に問題は見られないということになります。なぜ落札率に注目するのか、以下に述べます。
入札に問題があるかをどう見極めるか
業者はなるべく高い金額で受注したいので、予定価格=上限にできるだけ近い金額で落札しようと考えます。そこで入札する業者同士で事前に打ち合わせて、どの業者が幾らで落札するかを決めてしまうことがあります。これが「談合」と呼ばれる問題です。発注者側が予定価格などの情報を漏らし、談合が行われるのが「官製談合」と呼ばれるものです。
談合が行われているのであれば、落札金額は予定価格に近くなっていくので、「落札率」は高くなります。そこで、談合が起きていないか見分ける方法として、落札率についてこんなことが指摘されてきました。
【日弁連報告書】
・談合が行われている場合……98%、99%
・自由競争……75%、80%
【公取委・竹島委員長(当時)発言】
・談合をやめた場合、落札率は平均18・6%下落
【市民オンブズマン】
・95%以上……談合の疑い極めて強い
・90%以上……談合の疑いあり
2005年に発覚した新潟県中越地震の復興事業をめぐる当時の川口町の官製談合事件では、問題となった工事の落札率が99・75%でした。川口町発注の工事は軒並み落札率が高く、事件の前から談合などが行われていないかと懸念されていました。
川口町は震災も引き金となって財政的に立ち行かなくなり、その後、長岡市に吸収合併されました。長岡市では現在、ホームページの「建設工事契約案件結果一覧」で落札価格や落札率を公表しています。
自治体や国の機関の中には、落札率が高くなり過ぎていないか可視化しようと、毎年/毎月の「平均落札率」を公表しているところもありますね。
では、落札率が90%以上なら談合をしているといえるかというと、それは推測にすぎません。仮に99・99%だったとしても決して断定はできないのです。入札調書には役に立つ情報が含まれていますが、これらはあくまで取材のきっかけにするための参考資料だと考えてください。
まさかの「100%落札」とは
ただ、入札調書を見てすぐに「これはおかしい」といえるものもあります。それは予定価格と全く同じ金額で落札する「100%落札」です。