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オープンデータ活用術・完全版【第1章】①国の事業や支出先を調べる

文:D-JEDI理事 熊田安伸

拙著『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』は、おかげさまで第一刷が完売し、現在増刷中です。ただ、ページ数の都合で当初の想定より図版や事例など内容を大幅に縮小せざるを得ませんでした。さらに、紹介したネット上のツールはどんどん更新されるので、本というスタイルでは対応しきれません。そこでD-JEDIの会員向けに、改めて「完全版」を連載することにいたしました。今後、月1~2回をめどに発信(全30回ぐらい?)私自身も研究しながら手探りでやりますので、「ツールのカタログ」だと思って気軽にお使いください。

まずは国の事業が適切に行われているかどうか、予算やその執行、事業内容について調べたいときに使えるオープンデータの入手方法を紹介していきます。

2012年に放送された「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災『追跡 復興予算19兆円』」は、増税によって賄われた復興予算が被災地とは直接的には関係ない事業に次々と使われていった実態を明らかにし、話題になりました。指摘を受けて、国は一部の事業の事業費を国庫へ返納する措置を取らざるを得なくなりました。

NHKのホームページより

この報道で使われた基本資料の一つが「行政事業レビューシート」です。以前からこれを利用した報道もありましたが、この番組で多くの人の目に触れ、注目されるようになりました。「風が吹けば桶屋がもうかる」ような奇妙な理屈で行われた事業があることが判明し、被災地のためにと増税に耐えていた多くの人たちから批判の声が上がりました。

この行政事業レビューシートから見ていきましょう。

「行政事業レビューシート」を使う

行政事業レビューとは、国の約5000のすべての事業について、各府省が点検・見直しを行うもので、その際に使われるのがレビューシートです。民主党政権の時代に「事業仕分け」のために誕生し、その後、政権が自民党に移ってからも「秋のレビュー」として継続しています。このシートができたおかげで、見えにくかった国の予算を事業ごとに検証できるようになりました。

例えば、話題になった「持続化給付金」の事業については以下のようなシートがあります。事業の内容や目的、予算の金額や算出根拠と執行状況、府省の担当部局などが一覧できるものです。

経済産業省からの資金の流れについても、図2のように視覚的に分かる体裁になっています。どのような企業・法人がどんな事業を幾らで受注しているかが分かります。

次の表は別のシートから。ニュースで頻繁に取り上げられた一般社団法人サービスデザイン推進協議会が、経済産業省から委託した事業のものです。このように、どんな費目にいくらを使ったのかが分かります。受注した事業を別の法人にいくらで再委託したのかなども見えてきます。

このシート、国民にすべて公開されています。内閣官房行政改革推進本部のホームページからダウンロードが可能。こちらに各省庁の事業シートへのリンクがあります

「政府の行政改革」ホームページより

行政事業レビューには、取材の狙い目ともいうべきタイミングがあります。レビューシートが公表される、8月末から9月にかけてです。11月に行革推進会議による検証が始まる前に、ぜひ独自のチェックをしてみてください。

「政府の行政改革」ホームページより

「JUDGIT!」を使う

ただ、入手したい事業のシートを探すのは手間です。そんなときに威力を発揮するのが、「JUDGIT!」というサイトです。シンクタンクの構想日本と、日本大学の尾上研究室、データ・ビジュアライゼーションを手掛けるVisualizing.JP、そして〝探査報道〟に特化したNPO法人Tansaの4者が運営していて、利用は無料です。

JUDGITのサイトより

JUDGIT!では、行政事業レビューシートをデータベース化。事業別に検索したり、支出先ごとに検索したりすることができます。先に登場したサービスデザイン推進協議会を名前で検索すると、どんな事業を受託し、その事業に幾ら支出されたかが一覧になって出てきます。データの基になった、行政事業レビューシートの本体もダウンロードできます。

これを応用すると、例えばこんなふうに使えます。朝日新聞や東京新聞は、一般社団法人環境共創イニシアチブについても、公共事業を請け負い、運営費用の中抜きが疑われているサービスデザイン推進協議会と同じような問題があるのではないかと報じました。

朝日新聞のホームページより引用(記事へのリンクはこちら

実は私、この記事が出る前から環境共創イニシアチブに注目していたのですが、その理由はJUDGIT!の検索機能で「一般社団法人」とだけ入力してみると、国の事業を受託した一般社団法人が一覧で表示され、当時はこの団体への支出額が他の一般社団法人を大きく引き離してトップだということが分かったからです。

画像は取材当時のランキング。現在は別の団体が上位に。

あまり聞いたことがない名前の法人が、いったいどんな事業をしているのか、気になりますよね。名前をクリックすると、この法人がマイナンバーカードだけでなく、他にも多くの事業を受託していることが分かります。

利用法によってはこうして取材のきっかけを見つけることができるわけです。

同じように、自治体名や企業名でも検索して取材に役立てることができます。東京電力福島第一原子力発電所の事故で大きな痛手を被った福島県の大熊町で検索すると、以下のような結果が出ました。「福島再生加速化交付金」が主だったものになっています。

一方、福井県の高浜町では、元助役が多額の金品を関西電力の幹部らに渡していたことが大きな問題となりました。その高浜町で検索すると、以下のような結果が出ました。主なものは「電源立地地域対策交付金」、つまり原発を抱える自治体に配られる交付金、いわゆる「原発マネー」とも呼ばれるものです。

このように、自治体や企業の「本当の姿」が事業や予算の面から見えてくるわけです。気になる企業などがあったら、ぜひ積極的に利用を。思わぬ発見があると思いますよ。(ここ、26日のセミナーで詳しく実演します)

行政事業レビューシートの弱点

残念ながら、行政事業レビューシートも万能というわけではありません。ある事業が多数の企業に委託されている場合、上位10社までしか表示されず、個人が受注している場合はA、Bなどの記号で表記され、名前が分かりません。最近では、委託先の企業の名前が記号のままというシートも散見されます。

毎日新聞は2020年の11月に、行政事業レビューシートに大量の誤記があったと報じています。これでは事業を検証するという本来の目的が果たせません。

毎日新聞のサイトより引用(記事へのリンクはこちら

もちろん、取材に利用するときには、シートはあくまできっかけや参考資料で、記者は数字のダブルチェックをしていると思うのですが、なんとも心もとないです。政府の行政改革推進本部は、全省庁に調査させ、修正を求めるということでしたから、ぜひ正確なものを国民に公開していただきたいと思います。

「基金シート」にも注目を

行政事業レビューシートと同じように公表されている資料に、「基金シート」があります。複数年にわたる事業の財源として公益財団法人などに設置される「基金」について、執行状況や残高が分かるシートです。同じ内閣官房の行政改革推進本部のサイトから入手することができます。

「政府の行政改革」のホームページより

この基金シートなどを徹底的に分析した調査報道を、日本経済新聞の鷺森弘さんたちのチームが「国費解剖」としてキャンペーン報道しています。執行率が低い事業や、費用の見込みが過大とみられる事業などを具体的に調べ上げ、問題点を指摘しています。報道を受けて会計検査院が調査に乗り出し、一部の基金について過大な算定を指摘。国庫返納などの対応を求める事態に発展しました。

日本経済新聞のサイトより(記事へのリンクはこちら

次回も「国の事業や予算を調べる」の続きです。究極のお役立ちツール「官報」などについて紹介します。

テクニックを実演するセミナーを開催します

今回の連載に登場するテクニックを実演するセミナーを開催しますよ。1月26日(木)午後8時から。申し込みは以下のサイトからお願いします。なんと、D-JEDI会員の方は無料です。新聞社などで私がいつもやっているセミナーとはちょっと趣向を変えて、実演を中心にしていますので、「一度講座を聞いたけど、ついていけなかった」という人もぜひどうぞ。

開催概要
【日時】2023年1月26日(木)20:00-21:30
【登壇者】熊田安伸(SlowNewsシニアコンテンツプロデューサー、D-JEDI理事)
【開催形式】Streamyardによるライブ配信(リアルタイムで参加できない方も視聴できるように、お申込みいただいた方全員にアーカイブ配信を後日お送りします)
【主催】一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)



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