「課金アカデミー」が世界で広げる新聞DXの成功モデル FTストラテジーズ
ニュースメディアのビジネスモデルの柱といえば、広告と課金ですが、そのあり方は多様性を増しています。自分たちのメディアのミッションにあったビジネスモデルをどう確立するのか?
デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)が2022年12月14日に開催したセミナー「メディアはどう稼ぐか 広告と課金を伸ばす」で、それぞれの専門家が解説をしました。
前編は、新聞社のビジネスモデルをデジタルサブスクリプションに転換させるためのプログラムを日本で展開するFT Strategies(FTS)シニア・コンサルタントのHugh Takahashiさんによる発表と質疑をお届けします。
モデレーター:古田大輔 ジャーナリスト/メディアコラボ代表、D−JEDI理事
欧州で成功したプログラムを日本でも実施
ファイナンシャルタイムズ(FT)のFTストラテジーズ(FTS)シニアコンサルタントをしていますHugh Takahashiと申します。本日はFTSの紹介、いま実施しているプログラム「サブスクリプション・アカデミー」を通して得た考察を共有したいと思います。
本日は3つのパートに分けてお話します。FTSをご存知でない方も多くいらっしゃると思いますので、最初にFTSの概要をお話します。次に、FTSのプログラムとして2022年から日本で開催している「サブスクリプション・アカデミー」についてです。3つ目は「サブスクリプション・アカデミー」の6カ月間のプログラムで見えてきた、参加新聞社の皆様に共通する課題について、データを見ながら解説させていただきます。
FTSはファイナンシャルタイムズのコンサルティング部門が提供するサブスクを専門としたコンサルティングサービスで、英国とヨーロッパで最初に始まりました。最終的なゴールは、読者やユーザーと継続的かつ価値のある収益関係を築き、持続可能、サステイナブルなビジネスを構築していくことです。
FTは元々広告に依存していた収益モデルでした。そこからサブスク主導のビジネスモデルに転換するために非常に多くの苦労を重ねてきました。苦労が実を結び、2019年に有料購読者100万人を達成しました。その経験を生かしてコンサルティングサービスを世界のメディアおよびメディア以外の業界にも提供を始めた、というのがFTSの設立の経緯です。
ヨーロッパで始まったサービスですが、ヨーロッパ以外の様々な国でそれぞれ課題がありますので、今後は対象エリアをさらに拡大していこうとしています。
次に、FTSが日本で提供するサービスの内容をご紹介します。
「サブスクリプション・アカデミー」でビジネスモデルの転換を支援
いま、日本では6ヵ月間の「サブスクリプション・アカデミー」というプログラムを実施しています。このプログラムはもともとGoogle News Intiative(GNI)などと連携して、サブスク事業の成長を目指して欧州にある8つの新聞社に提供していたものです。
ヨーロッパの新聞社も広告収入に依存していたので、サブスク主導の事業モデルに転換をするためにプログラムを提供していたんです。当初コロナの影響もありまして、なかなかスムーズに行かないこともありましたが、最終的に欧州の新聞社では平均30%の成長を達成し、ビジネスモデルの転換に貢献することができました。
ヨーロッパでの成功を踏まえ、2022年に日本でも各社の事業をデジタル・サブスクリプションに転換するためにこの半年間のプログラムをローンチしました。
現在、日本では5つの新聞社に参加していただいております。ある程度成熟したケイパビリティを持つ新聞社を対象に行われるプログラムであるため、1年以上サブスクに取り組んできた会社を対象にしています。しかし、今後2023年には、まだサブスクをやったことがない新聞社を対象としたプログラムをGNIと共同で始める予定です。
2022年の参加企業は、日本各地からバランスを考慮し、長野の信濃毎日新聞、秋田の秋田魁新報、京都の京都新聞、広島の中国新聞、それと沖縄の沖縄タイムズの5社となっております。
日本の地方紙が抱える3つの課題
次に、このサブスクリプション・アカデミーを実際にやってきて得られた考察をお伝えします。参加企業の5社に共通する課題が見えてきたのですが、これらは他の地方新聞社にも当てはまるものではないかと考えています。
具体的に3つあります。1つ目はマインドセットです。日本における地方新聞社のデジタルに関するマインドセットがやや遅れている印象を持っています。その結果、全てにおいてデジタルが浸透しない要因になっているのではないかと考えています。後ほど、ヨーロッパと日本のプログラムを比較しながら、日本におけるデジタルの浸透の傾向を見ていきたいと思います。
2つ目は、日本では広告収入の収益減少という現象が起きていることです。もちろんこれは世界でも起きていることです。これを踏まえて、サブスクリプションに転換する必要性を述べたいと思います。
最後の3つ目は、オーディエンスデータを取ってデータ主導の手法を導入するメリットについてお伝えします。
日本の新聞社は今も圧倒的に紙媒体に依存している
それでは、それぞれのポイントについて見ていきましょう。データはFTSのサブスク・アカデミーに参加した新聞社の平均です。まずは1つ目のポイントのデジタルプランの浸透率の低さとマインドセットについてです。
グラフにすると一目瞭然ですが、2022年にサブスク・アカデミーに参加した日本各社の平均値と同じく2022年に参加したヨーロッパ各社の平均値でプランの内訳を見ていきます。日本のデータを見ますと、紙媒体が98%を占めております。デジタルは紙媒体との併読を合わせても1.5%に届きません。ヨーロッパ各社の紙媒体比率は約30%であるのと比べると、やはり日本におけるデジタルプランの浸透率の低さが圧倒的に際立ちます。
ヨーロッパの例では、各国によって内訳の数値が大きく変わります。例えば、西欧、イタリア、スペイン、英国では、ほぼデジタルに移行している地方新聞社も多くいますが、ドイツや東欧を見ていると、デジタル比率は60%ぐらいとなります。それでもやはり、ヨーロッパの方がデジタル移行が進んでいることが分かります。
日本においてデジタルが浸透しない理由の一つとして挙げられるのは、日本独自の供給網、つまり、多数の販売店を新聞社が持っていることです。その結果、紙媒体に継続して依存しており、ライフスタイルとしても紙媒体が定着しているのではないか、とFTSでは考えています。
新聞社と読者両方において当てはまることですが、デジタルマインドセットが定着していないのです。データ主導の手法を取らず、デジタルにフォーカスしていないため、マーケット自体が縮小して若年層が離れていった結果、収益が下がっていると考えております。
それでもデジタルは成長している
各新聞社のデジタルプランの推移を見ても、浸透が遅いです。主要読者層にデジタルの意識が無いことと、若年層の新聞離れが背景にあります。各プランの成長率の推移を見ますと、デジタルプランの成長率はかなり大きく、伸びている。紙との併読プランでも同じことが言えます。紙媒体の成長率は下がっていますが、デジタルは成長しているんです。
集中すべきはデジタルであることは明確です。また、データから読み取れることとして、デジタル市場がまだ成熟しきっていないことが分かりますので、デジタルに集中すれば、事業を拡大させる余地はまだあると考えています。