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ニートから人気ライターへ コネゼロから始めるインタビュー術

インタビュー記事はライターの基本で、最も依頼が多い仕事でもあります。デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)が5月28日にオンラインで開いたライティング・編集講座では、初の著作を出したばかりの人気ライター嘉島唯さんをゲストにインタビュー術を学びました。

D-JEDI会員には動画アーカイブと資料を提供しています。入会のお申し込みはこちら。これまでに実施したセミナーのアーカイブの提供の他、今後のセミナーに無料または割引で参加できます。

講座を前に嘉島さんにインタビューしました。これまでのキャリアやインタビュー技術について紹介します。

文:古田大輔


就活失敗、アルバイトからの再スタート

営業時代の机。細切れ時間でウェブメディアの記事を読むのが唯一の息抜きだった

学生時代からメディア業界を目指していたものの、テレビ局や新聞社、出版社、広告代理店にことごとく落ちて大手通信会社へ。営業の激務に疲弊する中で「いつかメディア業界に」と考えていた。

でも、自分で動かなければ「いつか」は来ない。2年で退社し、ウェブメディア「ギズモード」に履歴書を送った。採用は、編集アシスタントのアルバイトとしてだった。

「ニートだったので、とにかく必死で……歌舞伎町の奥にあるバーで会った人に『面接につないでください』と懇願したこともあるし、ギズモードの時は創刊編集長にTwitter(現X)で『御社に入りたいんですが』とDMを送ったのがきっかけでした」

1日50記事を分析、議事録が話題に

「いつか正社員になりたいと思ってたから、自分ができること、目標のチェックリストをつけてました」

担当は過去記事を掘り起こしてソーシャルに流すSNS運用。投稿ネタ探しのために1日50本の記事を読むノルマを自分で設け、どの記事がどれだけ読まれているかをスプレッドシートにまとめて、バズる記事の特徴を分析した。

「たくさん読むと、記事の定型が自然と身につくし、バズる記事とそうでない記事の差がわかってくるような気がして...。フォロワーが増えて、任せてもらえる仕事が広がっていきました」

もう一つ、社内で評判になったのが会議の議事録作りだ。簡潔でありながら要点を押さえた内容に、上司から「良い編集者は議事録をとるのが上手い」と褒められ、晴れて編集者として正社員になった。

iPhone記事で有名に

編集者としてライターが書いてきた原稿に赤を入れる仕事は、自分の文章術を鍛えることにもつながる。熱心な働きぶりが認められ、注目を集めるAppleに関する記事の執筆も任されるようになった。

「Apple 表参道ができた時にプレスイベントに行って、広報部長の方に『編集長と一緒にあいさつに伺わせてください』と直談判しまして。そこからご縁ができた感じで……、猪突猛進の結果みたいな」

自作のiPhoneカチューシャをつけて発売日の行列を取材していたら自分が取材されて有名に

「iPhoneの発売前日は、ストア前で行列に並びながら夜通しで記事を書くのですが、一緒に並んでる方から『記事見てるよ〜』と声をかけてもらえたり、一緒に朝の配給(配布される朝ご飯)を味わったり、時にはとくダネを教えてもらったり。読者の方に育ててもらっていたような気もします」

「Appleの方はスペックだけを紹介する通りいっぺんの記事ではなくて『嘉島さんなりに読み解いてみてください』と解釈を求めてくる。情報をいれつつ自分の視点を織り交ぜるバランスを、記事を書きながら学びました」

取材したらすぐに原稿を書く。仕事の速さも話題になった 

そういう記事は読者にも支持される。若手で勢いのあるライターがいると評判になり、新興メディアとして話題を呼んでいたハフィントンポスト、さらにBuzzFeedへと転職を繰り返してキャリアを積んだ。

「ボロクソに言われても書き直して驚かす」

「上司の編集者たちに鍛えられました。時系列で網羅的にフワッと書いてしまった原稿をボロクソに言われることが多かったです。そういう原稿の構成を、まるっと再構築して編集者を驚かせるのが好きでした」

ライターには編集者から原稿を修正されるのを嫌がる人もいる。最近はそういう人が増えて、編集者側も修正を遠慮しがちな風潮が広がるが、嘉島さんは全く違う考えだ。

「ガッツリ朱入れされる方がたぎる。第一読者の編集者はすごく大切だなぁと思ってます。Googleドキュメントで編集者と同期しながら朱入れ&修正している時は、脳汁がすごく出て楽しいです」

BuzzFeed時代にアメリカの同僚からもらった文章を書くアドバイス。常にモニターに貼っていた

インタビュー記事の3類型を使いこなす

この記事を書いている私(古田)は9年前、BuzzFeed Japanの創刊編集長で、嘉島さんを採用した本人だ。彼女が上司を驚かせる仕事ぶりだったというのは誇張じゃない。

突然、「坂本龍一さんのインタビューアポが取れました」と言われたときは、思わず「どうやって?」と聞き返した。答えは「坂本さんのことがずっと好きだったから」。回答になっていなかった。

書いてくる記事は多彩だった。インタビュー記事は、1. 質問と答えを交互に並べる「Q&A」、2. インタビュー対象が一人で喋っているかのような「独白」、3. 周辺情報を織り交ぜながら読み物として書く「地の文まじり」の3つの類型がある(例えば、この記事は地の文まじりだ)。

それぞれに効果が違う3つの手法を、彼女は自在に使いこなす。一度の取材で「面白い話が聞けたから」と、複数の形式で記事を書くこともある。

地の文まじり

Q&A

著作もソーシャルも調べ尽くす

嘉島さんは、インタビュー相手の著作や過去記事、SNS投稿などを調べつくす。某女優に取材した際は「鍵アカウントありますよね」と聞いて、本人に驚かれたらしい。

本人から聞けた話と周辺情報を組み合わせて何度も構成を考え、編集者のアドバイスを求める。原稿の完成度を上げるために妥協しない。

小説家の生の言葉が面白くて独白系の原稿を書いたけれど、上司から「小説家は書いた言葉の方に真実があるんじゃないの」とアドバイスを受けて、随所に引用を盛り込んだり。

「インタビューの企画を立てる時は、その根本に自分の悩みみたいなものがあります。この人に聞きたいという人に話を聞き、記事を書いていく中で、モヤついた感情が言語化され、伝播していく。それが快感なんです」

「だから、いつも申し訳ないというような後ろめたさもどこかにあります。自分の悩みが根本にあるとしても、この記事の中心はインタビュー相手なんだということは常に意識しています」

メモがすでに面白い

「最初に思いつくのは定石の構成。でもそれだと平均点。何度も構成を入れ替えますし、編集者にどんどん赤を入れてもらいます」

「最近はChatGPTでWordファイルやGoogleドキュメントを添付できるようになったので、ChatGPTに『原稿の要約文』『感想』『内容にもっと深みをだすアドバイス』をもらっています。原稿を2本送って『どっちの原稿が優れている? 理由も添えて教えて』と聞くこともあります」

今回、インタビュー講座の講師を頼むと、すぐに「こんな感じでいいですか?」とメモを送ってきてくれた。箇条書きの簡単なメモなのに、それだけですでに面白い。

インタビュー講師の依頼をしたらすぐに送られてきたメモの一部

ウェブ育ちのライターの凄み

これだけ才能と熱意に溢れた人が、学生時代の就活ではメディアの世界に入れなかった。諦めずにウェブメディアのアルバイトから再スタートし、努力を重ね、今がある。

私は新聞社で取材や執筆の基礎を学び、BuzzFeedの編集長時代にウェブ育ちのライターには紙育ちと違う技術があることを知った。デジタルツールを使いこなすということではない、それは紙育ちでも学べばできる。根本的な違いは、自分をどこまで見せるのか、そして、読者との距離感だ。

限られた短い行数で端的に情報を詰め込む紙媒体の文章には、自分を投影させる余裕はあまりない。逆に自分を出す文章をたまに書くと自意識が前面に出過ぎて高圧的になりがちだ。

読者からの反応を直接的に感じ取ってきたウェブ育ちのライターは違う。インタビュー内容や想定読者に応じて、絶妙な間合いで自分を盛り込み、時には完全に背景に隠れる。私にはない能力だと憧れる。

嘉島さんが身につけてきた技術の解説だけでなく、そのキャリアの歩み方自体が、多くの方の学びにつながるはず。それが私が彼女に講師を頼んだ理由だ。

インタビューの秘訣とは

彼女が私に話してくれたインタビューの秘訣はまだまだたくさんあります。

・取材前のインプットはまずはwikipedia。それが世の中のその人に対する前提知識だから。そこに書かれていないことを引き出す。
・取材では嫌われる勇気を。好かれたから良い原稿が書けるわけじゃない。
・意地悪で厳しい質問をしているわけじゃないということをどう伝えるか。
・丁寧に、でも、対等に。
・バッサリ切ることも大切。書かないところにセンスが出る。
・話す言葉だけじゃなく、表情、仕草、服装、持ち物、その場の雰囲気。全てが原稿になる。
・誰に何を伝えようとしているのか。それによって書き方は変わる。
・ツイッター実況は要点を素早く抑える文章トレーニングで最強。私はラジオやイベントを実況してました。良いツイートはMCからリツイートしてもらったり、良いことばかり。

こういったアドバイスの詳細を知りたい方は、ぜひ、こちらからD-JEDI会員にお申し込みください。

嘉島唯氏プロフィール

新卒で通信会社に営業として入社、ギズモードを経て、ハフポスト、バズフィード・ジャパンで編集・ライター業に従事。 現在はニュースプラットフォームで働きながら、フリーランスのライターとしてインタビュー記事やエッセイ、コラムなどを執筆。