【セミナーレポート】「YouTube時代の選挙報道を考える」第1部(前半)
登壇者:豊島晋作さん(テレビ東京報道局 NEWSモーニングサテライト デジタル副編集長)
モデレーター:浜田敬子さん(D-JEDI代表、ジャーナリスト)
メディア各社は選挙報道で、とりわけ候補者の「当確」に重きを置いてきましたが、「当確」中心の取材・報道でいいのでしょうか。「投票に行きましょう」と呼びかけながら、ニュースは選挙や政治に関心を持ってもらうものになっているのでしょうか。
現場ではこうした悩みが尽きず、デジタル時代に即した選挙報道への模索が続いていると思います。
そこで今回はYouTube番組「参院選"タブーなき"一問一答」が話題となったテレビ東京の豊島晋作さんをゲストにお迎えし、新しい選挙報道のあり方をテーマに議論しました。
テレビ東京はこの数年、積極的にYouTubeを活用し、番組づくりだけでなくマネタイズについても挑戦を続けています。前編は豊島さんのプレゼンテーションのパートです。
「安全保障」ではなく「平和」 FTは見出しをどう決めるのか
テレビ東京の豊島晋作と申します。2016年から2019年末頃までテレビ東京のロンドン支局長とモスクワ支局長を兼務する形で4年くらい海外特派員として欧州、アフリカ、中東などを取材してきました。
その頃、ロンドンに本部を置くニュースチャンネル「Sky News」(スカイニュース)では、24時間ストリーミングをYouTubeで出していました。また、フランスの国際ニュース専門チャンネル「France Vingt-quatre」(フランス・ヴァン・カトル:フランス24)や、ドイツ国営の国際放送事業体「Deutsche Welle」(ドイチェ・ヴェレ)も、YouTubeでほぼ24時間放送している状況でした。
当時、日経グループがフィナンシャルタイムズ(FT)を買収して、テレビ東京ロンドン支局もフィナンシャルタイムズ本社に引越しました。私がロンドンに駐在していた後半の2年間は、日本経済新聞と系列のテレビ東京、そして日経ビジネス(日経BP社)のロンドン支局がFT本社の中で同じ屋根の下で暮らすような状況にあったのです。当時からFTはデジタル化が非常に進んでおり、私は間近にそれを垣間見ることができました。
FTの現場には、オーディエンスエンゲージメント(Audience Engagement:AE)部隊というチームがあり、彼らが見出しも差配するような状況にありました。
例えば、当時は2016年のブレグジットを国民投票に問う際、当時のキャメロン首相は「ブレグジットはイギリスの安全保障(security)にとってリスクだ」というスピーチをしたことがあります。
当然、FTはそのまま「ブレグジットは安全保障にリスク」という見出しを立てようとするんですが、AE部隊がTwitterのトレンドや、デジタルデータを駆使して「安全保障(security)という単語は理解されにくい」と異議を唱えました。代わりに「平和(peace)か戦争(war)にするべきだ」という意見があり、実際にデジタル版の見出しが「Peace at Risk」か、「War Risk」のような、「peaceかwar」となりました。
そのあとの紙面でも、AE部隊が提案した見出しになるなど、AE部隊の提案が紙に反映される状況を目の当たりにしてきました。日本経済新聞もおそらくそこから色々な知見を吸収し、私自身も多くを学びました。
海外報道の現場で目の当たりにしたデジタル化
また当時は、デジタルメディアの伝え方も変化しており、その過程も目の当たりにしてきました。
ヨーロッパで取材していると、あらゆる現場で記者がスマホを自撮り棒につけて1人で中継している姿が頻繁に見受けられるんですね。例えば、パリのイエローベスト運動の現場では、最初アルアラビアのテレビ局のヘッドを着けて自撮り棒で1人で喋り、次はアルジャジーラのヘッドに着け替えて喋るといったようなフリーランスのジャーナリストもいました。デジタルメディアの伝え方が当時大きく変わってきていることを肌で感じていたのです。
それまでは数億円もする中継車をメディアが時間単位でチャーターしていました。場所や環境、時間帯にもよりますが、5分間で何万円、10分間で10万円とか、テレビ局だけでなく、ロイターやAPなどの通信社もスタンドアップポイントを20万円ぐらいで買い取って、東京のスタジオとつないで中継をするというのが、私が2016年にロンドン支局に着任したときの定番でした。
2、3年過ぎたあたりから、LiveU(ライブユー)とか、TVU(ティービーユー)という小型映像配信機材が登場します。SIMカードを4本〜8本差し込んでそのまま現場からリュックみたいなものを背負って中継する機器なんですが、今ではそれらの機材が全世界的に当たり前になりつつあります。小型機材の登場で、長時間のライブ配信を動きながら機動的に中継できるようになりました。
私もパリのイエローベスト運動の現場を取材したとき、催涙弾が飛んでいる場所から、リュック型の機材を背負ったカメラマンと一緒に中継をしました。大体日本時間の夜というのは欧州時間のお昼ですので、一番デモが盛り上がっているときに中継ができるようになったんです。
実際今テレビ東京で配信している経済動画サービスチャンネル「テレ東BIZ」には、「どこでもライブ配信」という企画があり、LiveUなどの機器を使って中継費をかなり抑えてライブストリームをさまざまな場所からやっています。しかも、音声や映像のクオリティはスマホのレベルではなく、ちゃんとしたカメラのレベルです。
「ライブユー」で検索していただくと小さなポシェットのような大きさのものも出てくると思います。これはイスラエル製の機材で、今はハンドバックくらいに小型化されています。それが放送局の中継スタイルを一変させました。
今、私たちが見る国際放送や海外中継の映像の多くは、LiveUだけでなく、日本のスマートテレキャスターという機材など、小型モバイル映像配信機材によるものになっていると思います。このような機材の普及により、放送局もかなりの低コストで中継ができるようになっています。ネットメディアとの競争にも晒される中でこうした機材はなくてはならないものになっています。