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NHKでもPIVOTでも通用する企画力 「100カメ」ディレクターが予算100分の1で勝負できる理由

映像ディレクターとして、NHKで「100カメ」「ドキュメント72時間」などのドキュメンタリーを手がけたのち、オンラインビジネスメディア「PIVOT」に移り、新企画の立ち上げやメディアのマネタイズなど挑戦を続ける景山直樹さん。リソース豊富な伝統の大手テレビ局で身につけた知見は、予算1万円ということもある新興ネットメディアで通用したのか。12月23日のオンライン講座を前に、景山さんのキャリアを振り返りつつ、動画企画の立て方について聞きました。

聞き手:金川雄策D-JEDI理事


景山直樹さんインタビュー

“何でも屋”として磨いた、ストーリーテリング

——NHKでの最初のキャリアは地方局ですよね。

景山:最初は長崎で5年間働きました。ニュース内の5分番組の企画制作から、のど自慢、漁港からの生中継、甲子園予選の取材まで何でもやりました。長崎ですから原爆、それに離島が多く、国境や漁業といったテーマに触れる機会も多くありました。

——長崎時代のミニ番組は、ご自身にとってどんな鍛錬になっていましたか?

景山:動画でも記事でも一緒だと思うんですけど、何かを取材して、その情報を構成してストーリーにして伝えることは、地方局の5分番組も、NHKスペシャルのような大型番組でも、同じです。「世の中の人の関心はいまどこにあるのか?」ということから始まり、現場に行く。「取材し、情報を組み立て、ストーリーを紡ぐ」。これをひたすら繰り返すことが、今やっている仕事につながっていると思いますね。

ドキュメント72時間のロケ

「100台のカメラ」で地獄を見た

——東京に異動してからはどうでしたか?

景山:国谷裕子さんがキャスターを務めていた「クローズアップ現代」という番組を3年やって、詐欺事件から、終活や大谷翔平選手まで幅広いテーマを取り扱いました。「1週間プラスチックなし生活にディレクターが挑戦」と言う体験企画もやりました。その後「ドキュメント72時間」という番組を担当し、次は自分で新しい番組を作りたいと思って企画したのが「100カメ」でした。

当時、SNSが台頭し、視聴者は「もっと生々しい映像」を求めているんじゃないかと考えていました。反面、テレビは「作られたもの」というイメージが広がっていた印象がありました。その中で「カメラマンやディレクターが撮りたいものを撮るのではなく、できるだけありのままに近いものを撮ってみよう」という趣旨で企画し、「どうせなら100台置いてみるか」となりました(笑)。

もちろん、前例がないぶん苦労も山積みでした。どんなカメラを使うのか、バッテリーは何時間持つのか、撮影した数千時間の映像をどう管理するのか——すべてが手探りで、撮影から編集までまさに“地獄”のようでした。

——反響は?

景山:少年ジャンプ編集部というひきの強い場所だったこともあり、すごく大きかったです。テレビ・映像業界的には「固定カメラのリアルさ」が話題となり、そこからNHKを始め各局で固定カメラを使う演出が増えました。

番組の中で、ジャンプの編集者が新人作家に対して「ジャンプは『見たことないもの』を見てぇという雑誌」と話すシーンがあるのですが、番組自体も「見たことないもの」だったのが成功の要因だったと思います。

100台のカメラたち

見られるためには、主語を「会社から社会へ」

——企画を立てるときに、虫の目(現場からテーマを探す)と鳥の目(テーマから現場を探す)的な話があると思うのですが、どちらのタイプですか?

景山:両方ありますが、ズームバック(虫の目から鳥の目にズームアウトする)が多かったかもしれないです。

例えば、長崎にいた時、「児童の半数以上がインドネシア人の小学校が離島にある」という話を聞き、すぐに島に行ってみました。すると、そこはかつて炭鉱で栄えた島で、炭鉱が閉山になり人々が去り、廃墟が並ぶ「第二の軍艦島」になりかけていました。そこで、小学生たちを主人公にしたドキュメンタリーを制作したのですが、その時に心がけたのは、「地域の過疎化」「外国人との共生」「歴史資源の観光活用」などのズームバックしたテーマを感じられるようにすることでした。

——ズームバックすることで、大きなテーマを見つけることは、今の仕事にも繋がっていますか?

景山:PIVOTではこの1年は主に、企業とタイアップする広告コンテンツを担当しています。企業が自社の新商品をPRしたい、この社員を売り出したいというような相談がくるのですが、PRが先行しているもの、「会社が主語」のものはなかなか見てもらえません。

そこをズームバックして「社会を主語」にすることで、世の中の関心や課題と結びつけることができます。社会を主語にしたストリーの中に、課題の解決策として会社を出すことで、PR色も薄れて視聴も伸びる傾向にあります。

PIVOTでの挑戦:制約から企画が生まれる

——「Pivotter」や「社長改造」など、これまでとは違うアプローチの企画も手がけられていますね。

景山:そうですね。「辞め大企業のキャリアピボット Pivotter」は大企業からスタートアップへの転職というのが増えている、今後さらに増えるだろうという話から始まった企画です。

NHKだと、対象者を事前に取材して、何日間もロケして、いろんなシーンを撮って完成させるんですけど、スタートアップのPIVOTではなかなかそういうことができない。「数万円の予算で、短時間で制作する方法」を模索しました。

まず予算は、私がiPhoneで撮影することで乗り越えました。今のiPhoneはカメラに電話がついてるんじゃないかというぐらいクオリティが高いです。もちろんプロのカメラマンがプロ機材で撮るものには映像自体は劣りますが、機動性が高く、圧迫感もなく、iPhoneだからこそ撮れる映像もあります。

次は時間。動画は何が時間がかかるというか一番は編集作業です。編集作業を短くするには、撮影する素材を短くする必要があります。そこで、1回の撮影は「2時間以内」というルールを自分に課しました。出演者も忙しいビジネスパーソンの方々なので、拘束時間が短いというのは双方にとってメリットがありました。

演出的には、必ずしも知名度はない方々のお話にどう興味を持ってもらうか。一番の惹きとなるのは、辞めた会社。そこで、辞めた会社の前からスタートして、今の会社まで移動するというフォーマットにしました。歩きながら話すことで、ドキュメンタリー風に見えるという狙いもありました。また、辞めた会社の前から始めることで、本人も当時の気持ちを思い出してリアルな話をしてもらいやすくなりました。

このように「制約」から生まれた企画でしたね。            

——PIVOTに移ってからの企画の軸って何かありますか?

景山:そうですね、PIVOTに入った理由の1つとして、当時掲げていた「コンテンツの力で、経済と人を動かす」という言葉があって、すごくいいなと思っていたんですね。

Pivotterも「キャリアをPIVOTした人たちの話を聞くことで、自分も一歩踏み出すきっかけを与えたい」という思いから作りました。

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