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原点は雑誌ライター時代に ポリタス・津田大介編集長に聞く企画術

デジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)の「これからの時代のライティング・編集スキル講座」。8月27日に開催する次回のテーマは「企画力」についてです。

文章の記事にしても動画コンテンツにしても、出発点は誰に何を伝えるのかーーつまり企画を立てるところから始まります。でも、企画ってどう立てればいいの?とゼロから真っ白な画面を睨んで考え込んでしまう人も少なくないのでは?

出演者はポリタスTVの設立・運営者でジャーナリストの津田大介さん。ほぼ365日、番組の企画、制作、MCを担当する津田さんですが、なぜ毎日企画を考えられるのか、どのように発想しているのかを語ってもらいます。

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聞き手:D -JEDI代表 浜田敬子


津田大介氏インタビュー

質は圧倒的なトライアルから生まれる

ーー2020年6月から始まったポリタスTVも、もう4年。週末も含めてほぼ365日、番組を放送していますよね。私も隔週金曜日に「報道ヨミトキ」という1週間のニュースを振り返る番組に出演していますが、すごいなと思うのが、津田さんの圧倒的な引き出しの多さと情報のストック量。それが番組の企画のテーマの広さにも反映されていると感じています。

今日はなぜ津田さんがこんなに次々いろんな企画を考えられるのか、ということをお聞きしたいと思っています。

ポリタスのリンクはこちら。

津田大介(以下、津田):企画の質って結局は圧倒的な量から生まれると思っています。大量の試行錯誤、トライアルによって効果測定もできるから質を高めていける。僕の場合は毎日番組をやっているので、常に企画を考えなくちゃいけないということは大きいと思います。

ーーでも、最初から企画を次々と考えられたわけではないですよね?

津田:僕はIT系雑誌のライターからキャリアをスタートさせたのですが、駆け出しの頃に毎号書いていた『日経ネットナビ』時代に一番鍛えられました。後にも先にもあんな雑誌はないんですが、毎月必ず主要なライターを複数招いて、企画会議をやっていたんです。

ーーそれは珍しいですね。企画会議は編集部員だけが多いです。

津田:「打ち合わせしよう」と言われて集まってから、その場で次はこういう特集をやろうと思っていると言われるんですね。だからその場で企画を考えなくてはならなくて。

当時――1998年ぐらいでしたからスマホはないし、ノートパソコンを開いてその場で検索できる時代でもなかった。その時に持っている自分の知識や情報のストックが試されるんです。限りあるストックの中から、特集に合うように組み合わせて面白いものを出さなくてはならなかった。

さらにその場で出したアイデアの内容によってライターへのページが割り振られるので、何も言わなかったら、1Pももらえなかったんです。他のライターもたくさんいるなかで考えるので、競争ですよね。別のライターがたくさんページをもらっていたら、こういう切り口で出せばいいのかとか、勉強になりました。それを5、6年続けていましたね。

ーー強制的なトレーニングの場があったんですね。私は20代の時に週刊朝日に異動になった時に先輩から最初に言われたのが、「週刊誌記者の仕事の半分は企画を出すこと」ということ。強制的に出し続けると、自然にいつも脳内で企画を考えるようになりますよね。

津田さんはその後、音楽やコミックなどポップカルチャーに特化したニュースメディア「ナタリー」を運営していましたが、その当時と今の政治など時事ニュースを扱うポリタスとでは発想法は違いますか?

津田:基本は「世の中にないもので自分がほしいものを作る」というのが一番長続きすると思っています。ナタリーの時は既存の音楽雑誌が面白くなくて、自分が欲しい音楽情報を載せたメディアを作ろうと思ったんです。ファンが読みたいのはレビューじゃなく、自分が推しているミュージシャンの新譜やライブの情報、どういう雑誌にインタビューされているのか、テレビ出演はいつかなどの情報なんですよね。

でも、そういう情報が網羅的に掲載されたメディアがなかったので、だったら作ろうと共同創業者の大山卓也に声をかけて立ち上げました。

連日配信のポリタスのある1週間のラインナップ

人探しはXに振り切っている

ーーよく私も「企画術」みたいなことで講師を頼まれますが、誤解されていると思うのが、企画が面白い人は才能があると思われていること。実は企画でご飯を食べている人は、津田さんのように圧倒的なトレーニングの期間を経ている人が多い。

もう一つ、みなさんが誤解しているのが、企画をゼロから生み出そうとすることです。津田さんがかつて自分が持っている情報や知識のストックを特集に合わせてどう組み合わせるかという話をされましたが、そのためにはたくさんの引き出しが必要ですよね。

今、ポリタスでは経済、ジェンダー、司法、テクノロジーなど幅広いテーマを扱っています。この幅広いテーマのゲストをどうやって見つけているんだろうといつも思っています。誰にどのテーマを話してもらうか、も企画だと思うので。

津田:情報収集やオファーの面ではXに振り切っています。なぜかというと、まずXをやっている人は連絡が取りやすいからです。連絡先がわからない大学の先生の連絡先を調べることに時間や手間をかけない。そこは割り切っています。

あと、Xのタイムラインを見ると、その人の思考の断片がわかるんですよ。専門知があることはもちろん必要ですが、それ以外のパーソナリティも見えてくるので「あ、この人は話が面白そうだな」とか伝わってくるんですよね。

ーー面白そうだなと思ったら、DMで連絡をとるんですね。

津田:はい。ポリタスTVがメディアに出るのは「お初」という人もいるので、出演の依頼文には気を遣います。著作やインタビューを読んで、「なぜあなたに出てほしいのか」「この話をしてほしい」ということをそれなりの長さで書きます。

ーー「初」にはこだわっているんですか。

津田:ポリタスで意識しているのは、まず僕が見たい、読みたいと思っているもの。さらにこの企画はまだどこもやっていないよな、見たことがないよな、というもの。メディアやジャーナリズムの王道からハズレすぎるとダメなんだけど、ちょっとズラすというのは意識しています。

そして、それをなるべく明るくやろうと思っています。

ーー明るく?

津田:建設的ジャーナリズムという概念を知ったのは7、8年前なんですが、人々は暗いニュースばかり見すぎることで気持ちが塞いでしまう、抑うつ状態になってしまうということが言われているんですよね。ポリタスで取り上げるテーマは、政治やジェンダー、人権、司法など重いテーマが多いからこそ、その社会課題が明らかになることで解決の道が開けたら、ということは意識しています。それが「明るく」ということです。

多彩なゲストが登場するポリタス

準備し過ぎず、ベストエフォートで臨む

ーーもう一つすごいと思うのが機動力。あるニュースが起きると2、3日後に関係者や専門家を呼んで番組にしていますよね。ほぼ津田さん1人で企画を決め、ブッキングをしてMCとして準備もしながら…。

津田:これは逆に言えば、2日後がまだ埋まっていない、決め切れていないということでもあるんですけどね(苦笑)。

ただ最初から、決め過ぎないというのは意識してます。先々まで決めすぎるとタイムリーさやライブ感が失われるので。2、3日あったら今、話題になっていることについて誰かゲストを見つけてブッキングできるだろうと思っています。実際ラジオの現場はそれで回っていますし。

それが成立しているのってやっぱりZoomの力は大きいです。スタジオまで来て1時間喋ってもらうのはなかなかハードルが高いのですが、ポリタスが始まったのが2020年のコロナ禍でちょうどZoomが定着し始めている頃でした。僕の場合は一人しゃべりもできるので、ブッキング決まらなければ最悪一人しゃべりでやれる。それが精神的な保険にもなっています。

ーー几帳面な人だと不安だから2週間先まで番組のテーマとゲストを決めがちですが、企画においてタイミングってすごく大事だと思います。同じ企画でも読者が見たい、知りたいタイミングを逃してしまうと全然読まれないし、見られない。

津田:ポリタスTVのような番組って準備が大事だと思うんですが、僕も抱えている案件が多すぎるので、正直準備がパーフェクトにできたことなんてないんです。だから几帳面な人はキツイと思います。ポリタスTVでは台本を作らず、ゲストには事前に質問だけ投げておくぐらいで、その場のライブ感を大事にしています。

企画を考えるのは大事だけれど、予定通りにいくことの方が少ないわけだからベストエフォートで考える。こうなれば理想だなというものは持ちつつ、その理想にこだわらないことが大事かなと思います。なんて偉そうに言ってますが、結局は単なる言い訳ですね(笑)本当に申し訳ない……。

ーーそれが想定外のことが起きたり、予定調和に終わらなかったりする面白さにも繋がるわけですね。

津田:今は週の何日かは他の人にMCを任せていますが、3年間ほぼ僕1人で企画や出演交渉、MCまでやっていたという制約の中があったので、ベストエフォートにならざるを得なかったということもあります。

ーーMCの人選も独特で面白いですよね。例えば、科学技術系のテーマで時々MCをされている岡田麻沙さんは専門的な取材の経験があってインタビューも上手ですが、私はポリタスで初めて知りました。津田さんは前から知り合いだったんですか?

津田:あ、岡田さんもXです。一度も会ったことなかったんですが、Xが面白かったし、ライターだからインタビューも慣れているだろうと思ってお願いしました。番組のMCって公開インタビューのようなものだし。

他のメディアにできるだけ出ていない人が出演して、できれば、それがきっかけで他のメディアにも活躍の場を広げてもらうことが、ポリタスの新しい価値になるとも思っています。

選挙など旬の話題の中でも大手メディアとは違う切り口を意識する

大手メディアで検索して引っかからないネタを

ーーニュースメディアはどのぐらい見ていますか。

津田:新聞は紙を取らざるを得ない読売を除いて全国紙+東京新聞はすべてデジタル版で購読しています。あとは沖縄2紙のデジタル版。毎週金曜日にジャーナリストの青木理さんと浜田さんを交互に迎えて、その週のニュースをまとめて解説する番組「報道ヨミトキ」では、準備のために金曜日近くなったらクリップした記事をまとめていきます。

新聞を読むときに大事にしているのは、画面サイズの大きなタブレットで紙面ビューアーを使って読むこと。ニュースの価値判断を新聞がやってくれているので、時間の節約になります。見出しレベルで気になったものをスクショでクリッピングしておいて、放送直前に3〜4時間かけてパワポの資料にまとめます。

あとのニュースはやはりXから拾ってます。これはポリタスで使えそうだと思ったらブックマークしておきます。以前はいろんな記事をクリッピングしておいて後で読むサービス「ポケット」を使っていたんですが、最近はXのブックマークだけでいいなと思っています。

もう一つの情報源はスマートニュースかな。

ーーえ?スマートニュース?

津田:便利じゃないですか。大手メディアがやらないニッチなテーマを深堀する戦略なので、そういうネタを探すのには向いています。最近は有料課金もするようになりました。逆にヤフーニュースは一切見ていません。とにかくヤフコメが嫌いなので。別にそれで何の問題もない。

Xでトレンドになったものや、スマートニュースで「これはポリタスの切り口でできるな」と気になったものをメモに保存しておく。

ーー「ポリタス的な切り口」というのを、もう少しわかりやすく説明すると?

津田:「まだどこにも出ていない」というのが一つ。気になった人やテーマがあったら、朝日新聞や毎日新聞のサイト内検索、あるいはグーグルニュースを使って名前をフレーズ検索します。「ヒット0」と出ると、「あ、まだ大手メディアでは取り上げられていない」なと。それは判断材料の一つにはなります。

同じトピックでも違う視点から

数字は意識して見ないようにする

ーー人や新しさ、だけではない切り口ってありますか?例えば、ここの軸だけはブラさないとか……。

津田:一言で言うと、僕が見たいものです。自分のメディアや記事の一番のファンは自分でなくてはいけないと思っているので、企画を立てるときにはそれを大事にしてほしいなと。

ーー自分がその企画を見たいのか?読みたいのか?ということですね。数字を狙うということではなく。

津田:数字はものすごく意識して「見ない」ようにしています。ネットメディアの場合、数字が1秒単位で可視化されてしまうので、ウケたり収入が入ってしまったりすると、数字ばかりに気を取られてしまう。

とはいえ、僕がやっているのもメディアビジネスではありますから、全く気にしないのもダメですよね。なので、うっすら意識の中に入れつつ、でも自分が見たい、やりたい、聞きたいものを優先するようにしています。「今これやったらウケるだろう」とわかっていても、気が進まなかったらやらないことはこれまでも何度もありました。

ーーそれは熱量を持ってできないからですか?

津田:自分が関心なかったり嫌だと思っていたりすることはやらないって初めから決めた方が、精神的にはヘルシーだし、長く続けられる。企画の話に戻ると、結局は「やりたくないことはやらない」ということが、企画をずっと産み続ける最大のコツだと思うんですよね。

ーー新聞記者出身の人からよく「これを書きたい」という熱量高く売り込まれることがあるのですが、それが企画として成立するかというと、難しいときも多い。熱量、書きたいものと企画の差ってなんでしょうか?私は「誰に何を伝えたいか」という視点があるかどうかだと思うのですが。

津田:ポリタスは最初、ワントピックを1時間ぐらい解説してもらうというニュース解説から始まったんです。ラジオのメインコーナーを拡大するような感じだったのですが、少しずつビューや会員登録が上向きになってきたのは、1週間のニュースを網羅的に紹介して解説する「ヨミトキ」を始めてからです。

専門的なトピックは刺さる人には刺さるけど、関心のない人は見ない。むしろみんな、テレビや新聞は見ていてもニュースの裏側を知りたいんだ、そこにニーズがあるんだと気づいたんです。

ワントピックの解説も、網羅的な解説もやる。その調整をしながら自分がやりたいことと視聴者が「見たい」ものを近づけていった感じです。

知的興奮を一つでも持ち帰ってもらいたい

ーー続ける中で修正していく感じなんですね。

津田:どうやったらマンネリを避けられるかも気をつけています。MCも新しい人を入れ、番組のフォーマットも最初の頃に比べるとだいぶん変わっています。時々出演者と温泉行って、そこから配信したり、料理番組をしたりするのも、場所やシチュエーションを変えることで視点を変えたり、僕も含めた出演者の人の気持ちを変えられるからです。

ーー逆に「これはしない」と決めていることはありますか?

津田:これは明確に女性のMCに多く出てもらうようになった影響なんですが、バウンダリー(境界)を意識するようになりましたね。ゲストだけでなく視聴者にとってのバウンダリーや距離感を考え、チャット欄も含めて、いかに安心安全な空間を作るかということには気を配っています。

ありていに言うと、それを考えていないネットメディアが多すぎですよね、いまは。ズケズケ聞いた方がビューが取れるから。

僕らはそういう地味で慎重なスタンスでやっているから、大ブレークはしないけど、一気に衰退もしない。その中でどれだけ新しいチャレンジをして、新しいお客さんを連れてこられるかを考えています。

たまに飲み会に行くと、自慢話しかしない最悪なおじさんとかいるわけですよ。正直嫌だなと思っても、そんなおじさんでも2時間で1つぐらいは「へー、面白いな」という話をする。それ以外の2時間は全部嫌だなと思っても、1つでもあったらよしとしようというルールを僕は決めています。逆に一つもなかったら次から断る。

「ヨミトキ」を作るときに意識しているのは、一つでも「これを知ることができてよかった」というものを持ち帰ってもらいたいということ。知的興奮ってすごい快感ですよね。それを視聴者に届けたい。知ってよかったことは人に話したくなりますよね?人に話してもらって、広がっていくことで社会が変わるって信じてるんですよね。

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